吊り輪の振動技と後方宙返り系技|難度と採点の違いを解説
吊り輪の振動技と後方宙返り系技の仕組みを、FIG採点規則をもとに徹底解説。車輪・ヤマワキ・ホンマなどの振動技と、オニールや後方2回宙返りの終末技の難度、2025年版で変わったDスコアの数え方まで、採点の違いを比較してわかりやすくまとめます。
吊り輪の振動技は、静止した2本の輪の上で身体を大きく振り、宙返りや倒立へとつなぐダイナミックな技群です。なかでも後方宙返り系の技は、振動技としても終末技としても頻出し、Dスコアを大きく左右します。本記事では、つり輪の振動技と後方宙返り系技を、FIGの採点規則にもとづいて技の分類・難度・採点の違いから比較して解説します。
吊り輪の振動技とは|4つの技グループでの位置づけ

吊り輪の演技は、力技(静止技)と振動技を組み合わせて構成されます。振動技を理解するには、まず種目全体がどのような技グループで整理されているかを押さえる必要があります。
吊り輪の技を構成する4つのグループ
英語版ウィキペディアの解説によると、吊り輪の技は次の4つのエレメントグループ(EG)に分類されます。演技構成では、各グループから技を選ぶことが求められます。
グループ | 名称 | 内容 |
|---|---|---|
グループI | 振動技・振動倒立技 | 車輪、ヤマワキ、ホンマなど輪を握ったまま振る技 |
グループII | 力技 | 十字懸垂、水平支持など2秒静止する技 |
グループIII | 振動力技 | 振動から力技(静止姿勢)へ移行する技 |
グループIV | 終末技 | 宙返りで着地するフィニッシュの技 |
力技については吊り輪の力技|十字懸垂・水平支持の採点基準で詳しく解説しています。本記事はグループIの振動技と、グループIVを中心とする後方宙返り系技に焦点を当てます。
振動技(グループI)の役割
グループIの振動技・振動倒立技は、演技の骨格をつくる技群です。The Gymnastics Authorityの解説では、グループIは「輪にぶら下がった状態から振る技」と定義され、倒立へ振り上げる車輪や、二重宙返りのように見えるヤマワキ系の技が含まれるとされています。力技への移行前後をつなぐ役割を担い、演技全体のリズムを決めます。
なお、体操競技の演技構成や難度点を手軽に確認したい場合は、Gymnastics AI — Dスコア計算アプリが便利です。FIG 2025–2028採点規則に準拠し、790以上の技データベースを搭載しているため、吊り輪の振動技や終末技を選ぶだけでDスコアを試算できます。
後方宙返り系技が占めるポジション
後方宙返り系の技は、大きく2つの立場で登場します。1つは懸垂状態でフィニッシュする「後方2回宙返り懸垂(オニール)」のような振動技(グループI)、もう1つは着地して演技を終える終末技(グループIV)です。同じ後方宙返りでも、どのグループの技として実施するかで採点上の意味が変わります。
振動技として実施する場合は、宙返りのあとに再び輪を握って懸垂や支持に戻る制御力が問われます。一方、終末技として実施する場合は、宙返りをそのまま着地につなげるため、空中姿勢と着地のコントロールが評価の中心になります。同じ技術要素でも「どこで使うか」によって求められる能力が異なり、これが吊り輪の演技構成を難しくしている要因の1つです。
吊り輪の振動技の代表例と難度|車輪・ヤマワキ・ホンマ

ここでは振動技のなかでも代表的な車輪、ヤマワキ、ホンマを取り上げ、難度と姿勢による違いを整理します。
車輪(前方・後方)と振動倒立技
車輪は、輪を握ったまま身体を大きく1回転させて倒立に至る基本の振動技です。The Gymnastics Authorityのつり輪解説によると、後方車輪・前方車輪はともにC難度、倒立で止めずに通過する車輪はB難度とされています。倒立系の技はグループIを満たす基礎として重要で、演技の随所に組み込まれます。
ヤマワキとジョナサン(前方2回宙返り懸垂)
ヤマワキは、前方かかえ込み2回宙返りから懸垂に戻る振動技で、日本人選手の名前が付いた技です。The King of Gymnasticsによる2025年版の変更点によると、ヤマワキは2025年版でC難度からB難度へ引き下げられました。屈身または伸身姿勢で行うジョナサンも、D難度からC難度へと1段階下がっています。
さらに、ヤマワキや屈身ヤマワキから直接、振動倒立技につなげた場合は、これらの技が1段階格上げになるという規定も設けられています。姿勢だけでなく「次の技へどうつなぐか」でも価値が変わる点が、吊り輪の振動技の奥深いところです。
ホンマ支持と姿勢による難度差
ヤマワキが懸垂で終わるのに対し、支持(輪の上で腕支え)で終わる技はホンマと呼ばれます。前掲の解説によれば、ホンマ支持は屈身姿勢でB難度、伸身姿勢でC難度とされ、姿勢を伸ばすほど難度が上がる関係が一貫しています。振動技の難度をまとめると次の表のようになります。
技 | 内容 | 難度(2025年版) |
|---|---|---|
車輪(倒立通過) | 倒立で止めずに通過 | B |
後方車輪/前方車輪 | 倒立で静止 | C |
ヤマワキ | 前方かかえ込み2回宙返り懸垂 | B(旧C) |
ジョナサン | 前方屈身/伸身2回宙返り懸垂 | C(旧D) |
ホンマ支持(屈身) | 前方2回宙返り支持 | B |
ホンマ支持(伸身) | 前方2回宙返り支持 | C |
各技の難度や種目特性の全体像は男子体操6種目の特性と必要な身体能力もあわせて確認すると理解が深まります。
後方宙返り系技の難度と種類|懸垂系と終末技

次に、後方宙返り系の技を難度の観点から整理します。前方のヤマワキ系と対になる技群で、姿勢とひねりの数で難度が段階的に上がります。
オニール(後方2回宙返り懸垂)
後方屈身・後方伸身の2回宙返りから懸垂に戻る技はオニールと呼ばれます。前掲の2025年版つり輪の変更点によると、オニール(後方屈身2回宙返り懸垂/後方伸身2回宙返り懸垂)はE難度からD難度へ引き下げられました。前方系のヤマワキ・ジョナサンと同様に、後方系の懸垂技も全体的に難度が見直されています。
姿勢とひねりによる難度上昇
後方宙返り系技の難度は、姿勢(かかえ込み→屈身→伸身)とひねりの数で決まります。The Gymnastics Authorityが指摘するように、宙返り系の難度は回転やひねりを1つ足すごとに直線的に上がるわけではなく、難しい技ほど価値点の伸びが大きくなる傾向があります。吊り輪でも、伸身姿勢や複数ひねりを加えるほど難度が跳ね上がります。
実際の演技構成でDスコアがどう変わるか試してみたい方には、Gymnastics AIがおすすめです。技を選んで並べるだけで、難度点・グループ点・終末技加点を自動計算でき、後方宙返り系技を入れ替えたときの差も一目でわかります。
振動技と後方宙返り系技の採点比較
前方のヤマワキ系(振動技)と後方宙返り系を比べると、同じ「2回宙返り」でも役割が異なります。前方系は懸垂・支持で終わり演技の途中でつなぐ技になりやすいのに対し、後方系は終末技として着地に用いられることが多く、着地の質がそのままEスコアの評価に直結します。着地の減点基準については体操競技の着地技術と減点を防ぐポイントで詳しく解説しています。
採点上の比較として、前方系振動技は難度がB〜C中心で「グループIを満たしつつ演技のつなぎを作る」役割が強く、後方系は終末技として難度D以上まで伸ばしやすいため「難度点とグループ点を同時に稼ぐ」役割が強い、と整理できます。どちらか一方に偏るのではなく、前方系で構成の流れを作り、後方系で得点を積み上げるバランス設計が、現代の吊り輪では重視されています。
吊り輪の終末技|後方2回宙返りと発展技
後方宙返り系技がもっとも活躍するのが終末技(グループIV)です。ここでは基本形と発展技の難度を整理します。
基本の後方2回宙返り(抱え込み・屈身・伸身)
つり輪の終末技に関する解説によると、後方の2回宙返りは、かかえ込みと屈身がともにB難度、伸身姿勢になるとC難度に上がります。姿勢を伸ばすほど空中での制御が難しくなるため、難度が高く設定されています。
新月面などひねりを加えた高難度終末技
ひねりを加えると難度はさらに上がります。前掲の解説とThe Gymnastics Authorityの解説を総合すると、後方2回宙返りへのひねり追加による難度は次のように整理できます。
終末技 | 姿勢・ひねり | 難度 |
|---|---|---|
後方かかえ込み2回宙返り | かかえ込み | B |
後方屈身2回宙返り | 屈身 | B |
後方伸身2回宙返り | 伸身 | C |
新月面 | かかえ込み2回宙返り2回ひねり | E |
後方伸身2回宙返り1回ひねり | 伸身+1ひねり | D |
後方伸身2回宙返り2回ひねり | 伸身+2ひねり | F |
「新月面(しんげつめん)」は、かかえ込み2回宙返り2回ひねりの通称で、つり輪のDスコア算出の解説でもE難度の代表的な終末技として紹介されています。
終末技がグループ点に与える影響
終末技は、単に難度点を稼ぐだけの技ではありません。前掲の終末技解説によると、あん馬・つり輪・平行棒・鉄棒の終末技は、その難度価値点と同じ点数が「グループIV:終末技」のグループ点としても与えられます。つまり、難度の高い後方宙返り系終末技を実施するほど、難度点とグループ点の両方が増える二重のメリットがあります。
吊り輪のDスコア算出方法|8技構成と2025年の変更点
振動技と後方宙返り系技がDスコアにどう反映されるのか、算出の仕組みを整理します。
難度点とグループ点の合計
吊り輪のDスコアは、大きく「難度点の合計」と「グループ点」から構成されます。Dスコア算出の解説にある例では、難度点と特別要求(グループ点)を合算してDスコアが決まる流れが示されています。振動技・力技・終末技をバランスよく組み込むことが高得点の前提です。Dスコア全体の基礎は採点規則(Code of Points)の基礎で解説しています。
2025年版で数える技が8技に
2025年から変更された規則の解説によると、Dスコアの算出対象は従来の10技から8技へ削減されました。内訳は「難度の高い順に7技+終末技」の計8技です。加えて、同一グループから有効となる技は最大4技まで(従来は5技)に変更されています。技数が絞られたことで、1技あたりの難度選択がより重要になりました。
グループ点の難度要件(0.50/0.30)
2025年版では、グループ点の付与に難度要件が設けられました。前掲の解説によると、各グループがD難度以上の技で満たされた場合は0.50点、A〜C難度のみで満たした場合は0.30点となります。ただし、例外として全種目のグループI(吊り輪では振動技)は、どの難度で満たしても0.50点が与えられます。この例外により、振動技はグループ点の面で有利に働きます。
- グループがD難度以上で充足:0.50点
- グループがA〜C難度のみで充足:0.30点
- 例外:全種目のグループIは難度を問わず0.50点
2025年版採点規則での主な変更点
最後に、吊り輪の振動技・後方宙返り系技に関わる2025年版の主な変更点をまとめます。
ヤマワキ・ジョナサンの難度ダウン
前掲の2025年版の変更点によると、ヤマワキがC→B、ジョナサンがD→Cへ引き下げられました。これらは高難度化した現代の演技において「基礎的な技」と位置づけられ、相対的に価値が下げられた形です。
オニールの難度変更と振動倒立への格上げ
後方系のオニールもE→Dへ引き下げられた一方、ヤマワキや屈身ヤマワキから直接、振動倒立技へつないだ場合は1段階格上げになる規定が加わりました。単発の技の価値は下がっても、技のつなぎで価値を取り戻せる設計になっています。
力技制限と演技構成への影響
吊り輪はウィキペディアのつり輪解説でも触れられているとおり、ルール改正のたびに静止技・力技の制限が強化されてきました。力技を連続で行うには、その間にB難度以上の振動技を挟む必要があるなど、振動技と力技のバランスが構成の鍵になります。CR(演技構成要件)の考え方は演技構成要件(CR)とはもあわせてご覧ください。
まとめ
吊り輪の振動技と後方宙返り系技は、姿勢・ひねり・つなぎ方で難度が細かく変わり、Dスコアを組み立てる上での中心的な要素です。要点を整理します。
- 吊り輪の技はグループI(振動技)〜IV(終末技)に分類され、振動技は演技の骨格をつくる
- ヤマワキ(B)・ジョナサン(C)・ホンマ(屈身B/伸身C)が代表的な前方系振動技
- 後方宙返り系はオニール(懸垂D)や後方2回宙返り(伸身C)の終末技として頻出し、ひねりで難度が上がる
- 終末技は難度価値点と同じ点数がグループ点にも加算される
- 2025年版ではDスコアの対象が8技に減り、グループ点に難度要件(0.50/0.30)が導入された
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