全米男子体操予選2026|ネドロシクのあん馬Dスコア分析
2026年6月29日に行われた全米男子体操ナショナル予選をDスコアの視点で分析します。あん馬でトップに立ったネドロシクの一種目特化戦略と、オールアラウンド王者ワイスカスの安定感を読み解き、10月のロッテルダム世界選手権に向けた米国男子の戦力を展望します。
2026年6月29日、米国コロラドスプリングスのオリンピック・パラリンピック・トレーニングセンターで、全米男子体操のナショナル予選が行われました。パリ五輪あん馬銅メダリストのステファン・ネドロシクがあん馬で頭一つ抜け出し、東京五輪代表のシェーン・ワイスカスがオールアラウンドを制した大会です。本記事では、この予選の結果をDスコア(演技価値点)の視点から分析し、10月のロッテルダム世界選手権に向けた米国男子の戦力を読み解きます。
※本記事は2026年7月12日時点の情報です。スコアはUSA Gymnastics公式リザルトに基づきます。
全米男子体操予選2026の概要

いつ・どこで・何が起きたか
大会は2026年6月29日(土)、コロラドスプリングスのUSOPTC(米国オリンピック・パラリンピック・トレーニングセンター)で開催されました。位置づけは、8月にフェニックスで行われる全米選手権(Xfinity U.S. Gymnastics Championships)への出場権を得るための最終選考会です。この予選を通過しなければ全米選手権の舞台に立てず、その先の世界選手権代表争いにも加われません。
結果として、シニア15名・ジュニア4名の計19名が全米選手権への切符を手にしました。特に注目を集めたのが、オールアラウンドを圧倒的な点差で制したワイスカスと、あん馬という一種目に特化してトップスコアを刻んだネドロシクという、対照的な2人の存在です。
この大会がなぜ重要か
米国男子は近年、フレデリック・リチャードやアッシャー・ホンといった若い総合力型の選手が台頭し、パリ五輪では団体銅メダルを獲得しました。世界選手権に向けた代表争いはここから本格化します。予選→全米選手権→代表選考という多段階のプロセスの入口が、この6月末の予選なのです。
なお、体操競技の演技構成や難度点を手軽に確認したい場合は、Gymnastics AI — Dスコア計算アプリが便利です。FIG 2025–2028採点規則に準拠し、790以上の技データベースを搭載しています。あん馬やゆかの技を並べるだけで、その構成のDスコアがどう積み上がるかを確認できます。
オールアラウンド王者ワイスカスの戦い方

84.157という数字の意味
ワイスカスはオールアラウンドで84.157点(ボーナス込み)をマークし、2位に4点以上の差をつけて優勝しました。2位はスタンフォード大学勢のニコラス・キューブラーで80.202点、3位はハサン・アイドドゥの78.905点でした。80点台に乗せたのがワイスカスとキューブラーの2人だけという事実が、この大会でのワイスカスの安定感を物語っています。
ワイスカスは6種目すべてでトップ5に入り、平行棒(14.805)と床運動(13.950)で種目優勝も果たしました。オールアラウンダーにとって重要なのは、突出した一種目よりも「穴のない6種目」です。ワイスカスの結果はまさにその理想形と言えます。
予選結果の一覧
部門・種目 | 選手 | スコア |
|---|---|---|
シニアAA 1位 | シェーン・ワイスカス | 84.157 |
シニアAA 2位 | ニコラス・キューブラー | 80.202 |
シニアAA 3位 | ハサン・アイドドゥ | 78.905 |
あん馬 1位 | ステファン・ネドロシク | 14.300 |
平行棒 1位 | シェーン・ワイスカス | 14.805 |
ゆか 1位 | シェーン・ワイスカス | 13.950 |
ジュニアAA 1位 | ニクソン・マイルズ | 75.509 |
数値はUSA Gymnastics公式およびGymnastics Nowの報道に基づきます。オールアラウンドの合計点は、6種目それぞれのDスコアとEスコア(出来栄え点)の総和で決まります。Dスコアとエラーの積み重ねを理解すると、こうした合計点がなぜ生まれるのかが見えてきます。採点の基礎は採点規則(Code of Points)の基礎の記事で詳しく解説しています。
ネドロシクのあん馬スペシャリスト戦略

一種目に賭けるという選択
ネドロシクはあん馬で14.300をマークし、この種目のトップに立ちました。彼は高校時代に「あん馬でしか伸びていない」と気づき、あん馬一本に特化する道を選んだ選手です(Wikipedia)。2021年には米国選手として史上初かつ唯一のあん馬世界チャンピオンとなり、ペンシルベニア州立大学時代にはNCAAあん馬王者にも輝いています。
この「一種目特化」という戦略は、団体戦のフォーマットと密接に結びついています。世界選手権や五輪の団体決勝は「4人が演技し上位3人の得点を採用する(4-3-3)」方式です。総合力型の選手だけでなく、特定種目で確実に高得点を出せるスペシャリストをチームに1人加えることで、その種目のスコアを底上げできるのです。パリ五輪で米国が団体銅メダルを獲得できた背景には、まさにネドロシクの存在がありました。
あん馬のDスコアはどう作られるか
あん馬のDスコアは、旋回や移動、転向といった技の難度値を積み上げ、そこに技グループ要求(EG)と終末技の加点を加えて算出されます。ネドロシクがパリ五輪の種目別決勝で見せた演技はDスコア6.4、これに極めて高いEスコアが乗って15.300という得点になりました(ESPN)。参考までに、同じ決勝でマックス・ホイットロック(英国)はDスコア6.9という高難度に挑みましたが、フォームの乱れで減点を受けています。
ここに、あん馬という種目の本質が表れています。Dスコアを上げれば理論上の上限は高くなりますが、あん馬は連続する旋回のわずかなブレが即減点につながる種目です。ネドロシクの強さは、あえて超高難度を追わず、確実に降りきれる構成で高いEスコアを引き出す「Dとリスクのバランス設計」にあります。予選の14.300も、この設計思想の延長線上にある数字と読めます。
実際の演技構成でDスコアがどう変わるか試してみたい方には、Gymnastics AIがおすすめです。あん馬の技を選んで並べるだけで、難度点・グループ加点・終末技加点を自動計算できます。旋回技の詳しい仕組みはあん馬の旋回技術|ロス・シュトックリの基本、フロップやシアーズなどの高難度技はあん馬のフロップとシアーズの記事も参考になります。
Dスコアの視点から見る予選の読み解き方
予選段階でDスコアを抑える意味
選考会や予選では、必ずしも本番の最高難度構成をぶつける必要はありません。むしろ確実に通過することが目的なので、Dスコアをやや抑え、ミスのリスクを下げた構成を選ぶ選手も少なくありません。ワイスカスの床13.950やネドロシクのあん馬14.300も、シーズン後半のピークに向けた「余力を残した数字」である可能性があります。
ピーキング(試合に合わせた調整)の考え方は、こうした選考プロセスを読み解く鍵になります。試合ごとに構成の難度をどう上げ下げするかは戦略そのものです。関連する調整論は男子体操6種目の特性と必要な身体能力でも触れています。
総合力型とスペシャリストの使い分け
米国男子の戦力を考えるとき、選手は大きく2タイプに分かれます。以下のように整理できます。
- オールアラウンダー(総合力型):6種目すべてを高いレベルでこなす。団体では複数種目に貢献でき、個人総合のメダルも狙える。ワイスカス、リチャード、ホンなど。
- スペシャリスト(種目特化型):特定種目で世界トップクラスの得点を出す。団体ではその種目のスコアを底上げする。ネドロシク(あん馬)が典型。
団体戦のチーム編成は、この2タイプをどう組み合わせるかのパズルです。総合力型を並べて安定を取るのか、スペシャリストを入れて特定種目で勝負するのか。世界選手権の団体は5人枠のうち誰を選ぶかで戦い方が大きく変わります。日本代表の編成の考え方は世界体操2026男子日本代表|5人の構成とDスコア展望で解説しています。
米国と日本の選考プロセスの違い
米国は予選→全米選手権→代表選考トライアルという多段階かつオープンな選考が特徴です。誰でも予選から勝ち上がれる仕組みで、ネドロシクのようなスペシャリストにもチャンスが開かれています。一方、日本は全日本選手権とNHK杯を軸に、総合力を重視した選考を行う傾向があります。すでに橋本大輝、岡慎之助らを含む男子代表5人が確定しています(Gymnastics Now)。
ロッテルダム世界選手権2026への展望
次のステップは8月の全米選手権
予選を通過した選手たちは、2026年8月6日〜9日にアリゾナ州フェニックスで開催されるXfinity全米体操選手権に進みます(会場はMortgage Matchup Center)。男子はディフェンディング全米王者のアッシャー・ホンと、五輪・世界選手権の団体銅メダリスト、フレデリック・リチャードの22歳同士の対決が見どころとされています。開催地の詳細はUSA Gymnasticsが発表しています。
世界選手権はロッテルダムで10月開催
2026年の世界体操競技選手権は、10月17日〜25日にオランダ・ロッテルダムのAhoyで開催されます(大会公式サイト、Wikipedia)。採点規則の一次情報は国際体操連盟(FIG)公式で確認できます。米国が団体でどのようなメンバーを送り込むのか、そしてネドロシクのあん馬が再び団体スコアの底上げ役を担うのかが、この夏の選考の焦点になります。
日本のファンが注目すべきポイント
日本の体操ファンにとっても、米国男子の動向は無関係ではありません。団体・個人総合・種目別で日本と直接メダルを争う相手だからです。特にあん馬は日本が世界と競う上で重要種目の一つであり、ネドロシクの構成と得点は日本選手の目標ラインを測る物差しにもなります。海外の選考会をDスコアの視点で追うことで、10月の世界選手権をより深く楽しめるはずです。
まとめ
2026年6月末の全米男子体操予選は、10月のロッテルダム世界選手権に向けた米国男子の戦いの起点となりました。要点は以下の通りです。
- 2026年6月29日、コロラドスプリングスで全米男子予選が開催され、シニア15名・ジュニア4名が全米選手権への出場権を獲得した。
- ワイスカスがオールアラウンド84.157点で圧勝し、平行棒とゆかで種目優勝。6種目トップ5の安定感を見せた。
- ネドロシクはあん馬14.300でトップ。一種目特化の戦略と、Dとリスクのバランス設計が持ち味。
- 団体戦は総合力型とスペシャリストの組み合わせが鍵。次は8月のフェニックス全米選手権、そして10月のロッテルダム世界選手権へ。
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