跳馬の高難度技|リ・シャオペンとシューフェルト解説
跳馬の高難度技を系統別に解説します。前転とび入りのリ・シャオペン系、ロンダート踏切のシューフェルト系、そしてヤン・ハクソンやリ・セグァンなど世界最高難度の技まで、5つの技グループと2025-28採点規則の変更点をDスコアの観点から整理しました。
跳馬の高難度技は、助走スピードと踏切、そして一瞬の空中局面で価値点(Dスコア)が決まる、男子体操競技のなかでもとくに緊張感の高い種目です。跳馬の高難度技は入り方によって系統が分かれ、前転とび入りの「リ・シャオペン系」、ロンダート踏切の「シューフェルト系」、そしてツカハラ系へと発展していきます。本記事では、跳馬の技を5つのグループに整理しながら、代表的な高難度技の構成と難度、2025-28採点規則での変更点を解説します。
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跳馬の高難度技を理解する5つの技グループ

跳馬が「入り方」で分類される理由
跳馬は、他の5種目と違って1つの技(1本の跳躍)で演技が完結します。そのため技の難しさは、跳馬台への「入り方」と、跳躍後の宙返り・ひねりの複雑さで決まります。跳馬の競技概要にあるとおり、助走から踏切板、第1空中局面(着手まで)、突き放し、第2空中局面(宙返り・ひねり)、着地という一連の流れのうち、入り方が技グループを決定づけます。
2025-28の採点規則では、跳馬の技は入り方と宙返りの複雑さに応じて5つの技グループに再編されました。2025-2028 MAG採点規則のレビューによると、跳馬は「入り方と宙返りの複雑さに基づく5つのエレメントグループ」に整理されています。
グループI〜Vの分類定義
跳馬の技グループ分けの解説を整理すると、各グループは次のように定義されます。前転とび系と側転とび系の「1回宙返り+ひねり」がグループI、前転とび系の「2回宙返り」がグループII、側転とび(ツカハラ)系の「2回宙返り」がグループIII、ロンダート(ユルチェンコ)踏切のひねり付き1回宙返りがグループIV、ロンダート踏切の2回宙返りがグループVです。
グループ | 入り方・宙返り | 代表的な技 |
|---|---|---|
グループI | 前転とび・側転とび入りの1回宙返り+ひねり | ロウユン、ヨー2、伸身カサマツ、アカピアン |
グループII | 前転とび(前方)入りの2回宙返り | ローチェ、ドラグレスク、ブラニク、リ・セグァン2 |
グループIII | 側転とび(ツカハラ)入りの2回宙返り | ヨー、ル・ユーフ、リ・セグァン |
グループIV | ロンダート(ユルチェンコ)踏切のひねり付き1回宙返り | シューフェルト、シライ/キム・ヒフン |
グループV | ロンダート踏切の2回宙返り | メリサニディス、ヤン・ウェイ |
種目別決勝は「異なるグループから2本」
跳馬の種目別決勝では2本の跳躍が必須で、跳馬のグループ規定のとおり「それぞれが異なる技グループに属する技」でなければなりません。つまり同じ系統の技を2本跳んでも高得点にはつながらず、前方系と後方系を1本ずつ用意するのが基本戦略になります。この決勝ルールが、選手に複数系統の高難度技を習得させる大きな理由です。Dスコアの内訳を種目ごとに確認したい場合は、男子体操6種目の特性を解説した記事もあわせて参考になります。
前方系の高難度技|リ・シャオペンとその系統

前転とび入りの技系統とは
前方系は、跳馬台に手をついた後、体が前方向へ回転していく系統です。ローチェは「前転とび前方2回宙返り抱え込み」で、この技を1980年に初めて成功させたホルヘ・ローチェの名がつきました。前方2回宙返りは着地で正面を向くため、回転を目で最後まで確認しにくく、着地のコントロールが難しいのが特徴です。
前方系はローチェを基点に、ひねりを加えたドラグレスク、伸身姿勢で回るリ・セグァン2などへと難度を上げていきます。前方系は視界の確保が難しいぶん、突き放しの高さと回転の速さの両立が求められます。
リ・シャオペンの構成と難度
リ・シャオペンは、体操競技の技名一覧によれば「ロンダートから後ろとびひねり前転とび前方伸身宙返り2回半ひねり」で、旧規則での価値点は5.4とされていました。前方への伸身宙返りに2回半ひねりを加える構成で、伸身姿勢を保ったまま高速でひねるため、体の軸をぶらさない技術が要求されます。
本記事では代表的な技の価値点を旧規則(〜2024年)の値で示していますが、後述のとおり2025-28規則では跳馬の技が一律で引き下げられている点に注意してください。
ドラグレスク・ヨー2との関係
ドラグレスクは「ローチェ2分の1ひねり」で旧規則の価値点は5.2、ヨー2は「前転とび2分の1ひねり後方伸身宙返り2回ひねり」で同じく5.2とされています(技名一覧)。いずれも前方系の入りにひねりを組み合わせた発展技で、リ・シャオペン系と同じ「前転とび入り」の系譜に位置づけられます。
着地時の減点を抑える技術については、着地技術と減点を防ぐポイントの記事で詳しく解説しています。
後方系の高難度技|シューフェルトとロンダート踏切系

ロンダート(ユルチェンコ)踏切系の特徴
後方系は、ロンダート(側方倒立回転とび)から踏切板に入り、体が後方向へ回転していく系統です。踏切板に背中側から入るため助走エネルギーを縦回転へ変換しやすく、後方宙返りは着地を正面で迎えられるため、前方系より着地を合わせやすいという利点があります。ユルチェンコ系とツカハラ系の基本については、跳馬の種目別難度を比較した記事で詳しく扱っています。
シューフェルトの構成と難度
シューフェルトは、技名一覧によれば「伸身ユルチェンコ2回半ひねり」で、旧規則の価値点は4.8とされていました。ロンダート踏切から伸身姿勢で後方に回りながら2回半ひねる技で、グループIVに分類されます。伸身姿勢のまま高速でひねるため、踏切から着手までの第1空中局面でしっかり高さを稼ぐことが成功の条件になります。
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グループIVとグループVの違い
グループIVはロンダート踏切の「1回宙返り+ひねり」、グループVはロンダート踏切の「2回宙返り」です。グループ分けの解説によると、グループVにはメリサニディスやヤン・ウェイといった2回宙返り系が含まれます。シューフェルトはひねりで難度を稼ぐグループIV、後方2回宙返りで難度を稼ぐのがグループVという住み分けです。
世界最高難度の跳馬|ヤン・ハクソンとリ・セグァン
ヤン・ハクソン(前方系の到達点)
ヤン・ハクソンは、英語版ウィキペディアの記述によれば「前転とび伸身宙返り3回ひねり」で、価値点は2009-2012規則で7.4、2013-2016規則で6.4、2017-2020規則で6.0と段階的に引き下げられてきました。前方系の伸身宙返りに3回ひねりを加える、前方系の到達点ともいえる技です。なお、ヤン・ハクソンは2025年9月に現役を引退しています。
リ・セグァンII(ツカハラ・前方系の到達点)
リ・セグァンは、英語版ウィキペディアの解説によると2つの名前つき技を持ちます。1つ目の「リ・セグァン」は側転とび(ツカハラ)系の後方2回宙返り1回ひねり抱え込み、2つ目の「リ・セグァンII」は前転とび前方2回宙返り屈身2分の1ひねり(通称ドラグレスク・パイク)です。男子体操の最高難度跳馬を扱った解説でも、リ・セグァンやリ・セグァンII、ヤン・ハクソン、ドラグレスク・パイクが最難関の技として挙げられています。
2025-28規則での難度引き下げ
2025-28の採点規則では、跳越技の価値点が基本的に0.4下がったことが大きな変更点です。採点規則レビューによれば、この一律引き下げにより「最高スタートバリューは5.6」となり、ツカハラ抱え込み5分の2ひねりが新技として追加された一方、ユルチェンコ1回ひねり(シェルボ系)は削除されました。2025年版採点規則の主な変更点でも、腰が膝より下になる低い着地姿勢を大欠点とする減点が跳馬特有の項目として明示されています。
技名 | 系統・内容 | 参考価値点(〜2024規則) |
|---|---|---|
ヤン・ハクソン | 前転とび伸身3回ひねり | 6.0 |
リ・セグァン | ツカハラ系 後方2回宙返り1回ひねり | 6.0 |
リ・シャオペン | 前方系 前方伸身2回半ひねり | 5.4 |
ドラグレスク | 前方系 ローチェ2分の1ひねり | 5.2 |
ヨー2 | 前方系 後方伸身2回ひねり | 5.2 |
シューフェルト | ロンダート系 伸身ユルチェンコ2回半ひねり | 4.8 |
※価値点は〜2024年規則の参考値です。2025-28規則では跳馬の技が一律で0.4引き下げられ、最高スタートバリューは5.6となっています。最新値はDスコア計算アプリや公式規則でご確認ください。
高難度技を支える技術要素
第1空中局面と着手
跳馬の高難度技は、踏切板を離れてから跳馬台に手をつくまでの「第1空中局面」で決まると言われます。ここで体を高く運べないと、突き放し後に宙返り・ひねりを完成させる時間が足りません。前方系・後方系を問わず、助走スピードを踏切で垂直方向の高さへ変換する技術が土台になります。とくにリ・シャオペン系やシューフェルト系のように伸身姿勢でひねりを重ねる技は、第1空中局面でわずかでも高さが不足すると回転不足に直結し、着地でしゃがみ込む大欠点につながります。助走の最高速度をいかに失わず踏切に持ち込むかが、跳馬の高難度技を成立させる最初の関門です。
突き放し(ブロッキング)と第2空中局面
跳馬台からの突き放し(ブロッキング)は、高難度技の回転力を生む決定的な局面です。手で台を強く押し返して得た高さを使い、第2空中局面で宙返りとひねりを行います。前方系は着地で正面を向くため回転の視認が難しく、後方系は着地を合わせやすいという系統ごとの特徴が、ここで表れます。
着地の減点を防ぐ
どれだけ高難度の技でも、着地が乱れればEスコア(実施点)で大きく減点されます。以下のポイントを押さえることが、高難度技の得点化には欠かせません。
- 着地で腰が膝より下になる低い姿勢は大欠点(2025年版で明示)
- ステップ(動き)1歩ごとに減点が加算される
- ラインオーバー(着地ゾーンからの逸脱)も減点対象
- 前方系は正面着地のため、回転の抜きどころを事前に決めておく
採点の仕組み|Dスコアとリスク管理
跳馬のDスコア=技の価値点
跳馬のDスコアは、他種目のように複数の技を積み上げるのではなく、跳んだ1本の技の価値点がそのままDスコアになります。だからこそ、どのグループのどの高難度技を選ぶかが得点を左右します。Dスコアの基本的な考え方は、床運動のDスコア計算の記事で種目横断的に解説しています。
Eスコアと着地の減点
最終得点はDスコアとEスコア(10点満点からの減点方式)の合計で決まります。跳馬は空中局面が短く一発勝負のため、体の反り・曲がり、ひねり不足、着地のズレなどが即座にEスコアへ響きます。DパネルとEパネルの役割分担は、審判システムを解説した記事で詳しく扱っています。
2本の平均で決まる種目別決勝の戦略
種目別決勝は異なるグループの2本の平均点で順位が決まります。1本目に最高難度、2本目に安定した別系統の技を置くのが定石で、リスクとリターンのバランス設計が勝負を分けます。前方系と後方系を1本ずつ用意する選手が多いのは、この決勝ルールに最適化した結果です。
まとめ
跳馬の高難度技は、入り方によって系統が分かれ、それぞれの系統が独自の技術課題を持っています。要点を整理します。
- 跳馬の技は入り方と宙返りの複雑さで5つのグループに分類される
- 前方系(リ・シャオペン・ドラグレスク・ヨー2)は前転とび入りで着地の視認が難しい
- 後方系(シューフェルト)はロンダート踏切で着地を合わせやすい
- ヤン・ハクソンやリ・セグァンIIが世界最高難度に位置する
- 2025-28規則で跳馬の価値点は一律0.4引き下げられ、最高スタートバリューは5.6
- 種目別決勝は異なるグループの2本の平均で決まる
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