コフトゥン、クロアチア代表で復帰|平行棒Dスコア分析
パリ五輪平行棒銀メダリストのコフトゥンが、ウクライナからクロアチアへ国籍を変更し2026年7月に国際大会への出場資格を回復。地元ザグレブ欧州選手権でのクロアチア代表デビューと、平行棒のDスコア構成、日本の岡慎之助ら日本勢への影響をFIG採点規則の視点で分析します。
※本記事は2026年7月31日時点の情報です。
2026年7月10日、男子体操界に大きな動きがありました。パリ五輪の平行棒で銀メダルを獲得したイリヤ・コフトゥン選手が、ウクライナからクロアチアへの国籍変更にともなう1年間の待機期間を終え、国際大会への出場資格を回復したのです。8月に地元ザグレブで開かれる欧州選手権が、クロアチア代表としての初舞台になる見込みです。本記事では、この移籍のいきさつと、彼の最大の武器である平行棒のDスコア構成を、FIG採点規則の視点から分析します。
コフトゥンの電撃復帰とは — 何が起きたのか

まず、今回のニュースの骨子を「いつ・誰が・何を」で整理します。ウクライナ出身のイリヤ・コフトゥン選手が、クロアチア代表として国際大会に戻れるようになった、というのが要点です。単なる移籍ではなく、戦火のなかで居住国を変えた選手が競技の第一線へ復帰するという、スポーツと社会情勢が交差する話題です。
ウクライナからクロアチアへ — 国籍変更の経緯
コフトゥン選手は2022年のロシアによる侵攻以降、クロアチア東部のオシエクを拠点に生活とトレーニングを続けてきました。英語版ウィキペディアのプロフィールによると、彼は2025年にクロアチア国籍を取得し、以後はクロアチア代表としての活動を目指してきました。米メディアNBCスポーツのインタビューでは、「戦争だけが理由ではなく、いくつもの事情が重なって国籍変更を決めた」と語ったと報じられています。
体操競技の国際大会で選手が「どの国の代表として出るか」は、国籍だけでなく国際体操連盟(FIG)の規定によって決まります。国を移る選手は、一定の手続きと待機期間を経て初めて新しい国の代表になれます。
1年間の待機期間と2026年7月の資格回復
NBCスポーツによれば、国籍を変更する選手は、移籍元・移籍先の両国とFIG執行委員会の完全な同意がそろわない場合、1年間は国際大会に出場できません。コフトゥン選手のケースでは、この待機ルールが適用され、2026年7月に資格が回復する見込みと報じられていました。実際に体操専門メディアThe Gymternetの選手プロフィールでも、彼が2025年のクロアチア選手権に出場するなど、新体制での準備を進めてきたことが確認できます。
資格回復のタイミングとしては、2026年7月10日前後が転機とされています。つまり本記事執筆時点で、彼はすでに国際大会へ出場できる立場にあるということです。
なぜ大きなニュースなのか
コフトゥン選手は、単なる有力選手ではありません。パリ五輪の平行棒で銀メダルを獲得した、世界トップクラスのスペシャリストです。世界レベルの選手が代表国を移すこと自体が珍しく、しかもその舞台が「自国開催の欧州選手権」であることが、この話題をより特別なものにしています。
なお、男子体操の演技構成や難度点(Dスコア)を手軽に確認したい場合は、Gymnastics AI — Dスコア計算アプリが便利です。FIG 2025–2028採点規則に準拠し、平行棒を含む6種目の技を選んで並べるだけでDスコアを自動計算できます。本記事を読みながら、コフトゥン選手の平行棒の難度を実際にシミュレーションしてみると理解が深まります。
コフトゥンという選手 — 平行棒スペシャリストの実績

復帰の意味を正しく捉えるには、コフトゥン選手がどれほどの実力者かを知る必要があります。ここでは平行棒を中心とした彼の実績を整理します。
パリ2024で平行棒銀メダル
2024年パリ五輪の平行棒決勝で、コフトゥン選手は合計15.500点をマークし、銀メダルを獲得しました。パリ五輪男子平行棒決勝の公式結果によると、金メダルは五輪連覇を果たした中国の鄒敬園(Zou Jingyuan)選手で、合計16.200点でした。ここで注目したいのは、コフトゥン選手のDスコア(難度点)が7.000と、金メダリストの6.900を上回っていた点です。つまり彼は「難度で世界最高峰」の選手だと言えます。
世界選手権・欧州選手権での実績
コフトゥン選手はジュニア時代から頭角を現し、シニアでも安定して表彰台に絡んできました。主な国際大会の実績は以下の通りです。
- 2021年世界選手権:個人総合で銅メダル
- 2023年世界選手権:個人総合で銀メダル
- 2023年欧州選手権:平行棒で金メダル
- 2024年欧州選手権:平行棒・鉄棒で金メダル、団体でも金メダル(当時はウクライナ代表)
- 2024年パリ五輪:平行棒で銀メダル
平行棒だけでなく個人総合や鉄棒でも結果を残していることから、単なる一種目型ではなく、総合力の高いオールラウンダーであることがわかります。
「コフトゥン」— 自身の名を冠した技
体操競技では、国際大会で世界初成功と認定された技に、その選手の名前が付けられます。コフトゥン選手も平行棒に自身の名を冠した技を持っています。The Gymternetなどの資料によると、「コフトゥン」は上腕支持から後方に振り出し、4分の1ひねりを加えて片棒でキャッチする技で、2021年に採点規則へ加えられたC難度(0.3点)の技とされています。自分の名前の技を持つことは、その選手が競技の発展に貢献した証でもあります。技ごとの難度や名称の詳細は技データベースで調べられます。
平行棒のDスコアを読み解く — FIG採点規則の視点

コフトゥン選手の強みを理解する鍵は、平行棒のDスコアにあります。ここでは採点の仕組みから、パリ五輪決勝の数字を読み解きます。
DスコアとEスコアの仕組み
男子体操の得点は、大きく分けて2つの要素で構成されます。Dスコア(Difficulty Score=演技価値点)は「どれだけ難しい構成に挑んだか」を表し、上限はありません。一方Eスコア(Execution Score=実施点)は10.000点満点から実施の乱れを減点していく「美しさ・正確さ」の得点です。最終得点は、この2つを足し合わせ、必要に応じてニュートラルディダクション(ND、時間・ラインオーバーなどの追加減点)を引いて算出されます。
平行棒のDスコアは、技の難度点(A=0.1点〜)に、種目ごとに求められる技グループの充足による加点、そして高難度技を連続してつなぐ「連続技ボーナス」などを加えて決まります。難度の高い技を多く並べればDスコアは伸びますが、その分ミスのリスクも増え、Eスコアが下がりやすくなるというトレードオフがあります。
パリ2024平行棒決勝のDスコア比較
難度と実施のトレードオフを、パリ五輪の実際の数字で見てみましょう。上位3選手の得点内訳は次の通りです。
順位 | 選手 | 国 | Dスコア | Eスコア | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
金 | 鄒敬園(Zou Jingyuan) | 中国 | 6.900 | 9.300 | 16.200 |
銀 | イリヤ・コフトゥン | ウクライナ | 7.000 | 8.500 | 15.500 |
銅 | 岡慎之助 | 日本 | 6.500 | 8.800 | 15.300 |
この表が示すのは、まさに「難度と実施のせめぎ合い」です。コフトゥン選手は3人のなかで最も高いDスコア7.000を出しながら、Eスコアで金メダリストに0.800差をつけられ、逆転を許しました。鄒敬園選手は難度を7.000より低く抑えつつ、9.300という驚異的な実施点で頂点に立ったのです。日本の岡慎之助選手は、Dスコアを6.500に抑えて手堅くまとめ、8.800の実施点で銅メダルを確保しました。
実際の演技構成でDスコアがどう変わるかを試してみたい方には、Gymnastics AIがおすすめです。技を選んで並べるだけで、難度点・グループ加点・連続技ボーナスを自動計算できるため、「難度を上げるとどこでリスクが増えるのか」を数字で体感できます。
コフトゥンの構成 — 高難度と連続技ボーナス
Dスコア7.000という数字は、平行棒のなかでもトップクラスです。これを実現するには、E難度・F難度クラスの大技に加え、それらを連続でつなぐ構成が欠かせません。コフトゥン選手は自分の名を冠した技をはじめ、放し技(バーを一度離して再びキャッチする技)や高難度の旋回系を組み込み、難度点を積み上げています。
ただし、Dスコアが高いほど実施の難しさも増します。パリ五輪の結果が示すように、世界のトップでは「難度で攻めるか、実施で守るか」の戦略選択が勝敗を分けます。クロアチア代表としての新たな挑戦でも、この平行棒のDスコアが彼の生命線になるでしょう。Dスコアと難度技の全体像は体操競技のD難度技一覧の記事でも解説しています。
クロアチア代表デビューの舞台 — ザグレブ欧州選手権2026
復帰後の最初の大舞台は、8月に開催される欧州選手権です。しかも会場は、コフトゥン選手にとって「第二の母国」であるクロアチアの首都ザグレブです。
地元開催のアレナ・ザグレブ(8月19〜23日)
2026年欧州男子体操選手権の概要によると、大会は2026年8月19日から23日にかけて、ザグレブのアレナ・ザグレブで開催されます。クロアチアが体操の欧州選手権を主催するのは史上初めてで、開催国の代表として世界的スペシャリストが登場することは、大会の目玉のひとつになりそうです。欧州体操連盟の公式ニュースでも、7月中旬に「#Zagreb2026」のスターティングオーダー抽選が行われるなど、大会準備が着々と進んでいることが伝えられています。
欧州選手権が世界選手権の選考を兼ねる
2026年の欧州選手権は、単なる大陸選手権にとどまりません。10月にオランダで開かれる世界選手権への出場権に関わる重要な大会と位置づけられています。つまりコフトゥン選手にとって、ザグレブでの復帰戦は「クロアチア代表としての第一歩」であると同時に、「世界選手権へつながる試金石」でもあるのです。欧州選手権の展望については欧州体操選手権2026男子ザグレブ大会の記事でも詳しく取り上げています。
クロアチアにとっての意味
体操競技において、クロアチアは平行棒のスペシャリストを輩出してきた歴史があります。世界レベルのメダリストを新たに迎えることは、クロアチアの体操界にとって大きな追い風です。地元の観客の前で、赤白チェックのユニフォームを着たコフトゥン選手がどんな演技を見せるのか、大きな注目が集まります。
日本への影響と今後の見どころ
この復帰は、遠いヨーロッパの出来事にとどまりません。平行棒という種目を通じて、日本代表の戦いにも密接に関わってきます。
平行棒で交わる日本勢との争い
思い出してほしいのは、パリ五輪の平行棒で銅メダルを獲得したのが日本の岡慎之助選手だったことです。コフトゥン選手の復帰は、平行棒の表彰台争いに再び強力なライバルが加わることを意味します。Gymnastics Nowが伝える世界選手権の出場者情報によると、日本は男子団体に橋本大輝・岡慎之助らを擁しており、平行棒は日本にとってもメダルが狙える種目です。コフトゥン選手のDスコア7.000超の構成は、日本勢が世界選手権に向けて意識せざるを得ない基準値になります。日本代表の顔ぶれは世界体操2026男子日本代表の記事で詳しく解説しています。
ロッテルダム世界選手権2026への布石
2026年世界体操選手権の概要によると、大会は2026年10月17日から25日まで、オランダのロッテルダム・アホイで開催されます。8月の欧州選手権で復帰を果たすコフトゥン選手が、2か月後の世界選手権でクロアチア代表としてどこまで勝ち上がるのか。平行棒の決勝で、鄒敬園選手や日本勢との再戦が実現すれば、2026年シーズン屈指の名勝負になるでしょう。
2028年ロサンゼルス五輪を見据えて
コフトゥン選手はまだ20代前半で、次のロサンゼルス五輪でも十分に主役を張れる年齢です。クロアチア代表としてのキャリアは始まったばかりであり、平行棒を軸にどこまで登り詰めるのか、長期的にも見どころの多い選手です。鉄棒でも欧州王者の実力を持つだけに、複数種目での活躍にも期待がかかります。鉄棒の車輪系技については鉄棒のエンドー・アドラー・マルケロフの違いの記事で解説しています。
まとめ
イリヤ・コフトゥン選手のクロアチア代表復帰は、2026年の男子体操シーズンを象徴するニュースのひとつです。要点を整理します。
- パリ五輪平行棒銀のコフトゥン選手が、ウクライナからクロアチアへ国籍を変更し、2026年7月に国際大会への出場資格を回復した
- 復帰の初舞台は、8月19〜23日に地元ザグレブで開かれる欧州選手権になる見込み
- 彼の武器は平行棒のDスコアで、パリ五輪では金メダリストを上回る7.000をマークした
- 平行棒の銅メダリスト・岡慎之助を擁する日本勢にとっても、無視できないライバルの再登場となる
- 10月のロッテルダム世界選手権、さらに2028年ロサンゼルス五輪へと続く長期的な注目選手
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