AESTIHARMONY

体操の技名の由来|選手の名前がつく仕組みと日本人の技

体操の技名はなぜ選手の名前なのか。FIG男子採点規則(2025–2028年版)が定める技に名前がつく5つの条件と申請の流れ、ツカハラ・シライ・ミナミなど日本人の名前がついた技、技名と難度・Dスコアの関係まで、FIGの一次資料をもとにわかりやすく解説します。

体操の技名の由来|選手の名前がつく仕組みと日本人の技

体操の技名には「ツカハラ」「シライ」「トカチェフ」のように、選手の名前がそのまま使われているものが数多くあります。なぜ体操の技の名前に人名がつくのか、どうすれば自分の名前を技に残せるのかは、国際体操連盟(FIG)の採点規則で決まっています。

この記事では、男子体操競技のFIG男子採点規則(2025–2028年版)の条文をもとに、体操の技名がつく条件と申請の流れを整理します。あわせて、日本人の名前がついた技を種目別に紹介し、技名と難度・Dスコアの関係まで解説します。

体操の技名とは|選手の名前がつく技と記述名の2種類

体操の技名とは|選手の名前がつく技と記述名の2種類

体操の技名には「記述名」と「人名」がある

体操の技の名前は、大きく2種類に分かれます。1つは「後方伸身宙返り2回ひねり」のように、技の動きをそのまま言葉にした記述名です。もう1つは「ツカハラ」「シライ」のように、その技を最初に国際大会で成功させた選手の姓をとった人名の技名です。

  • 記述名:動きの順番(宙返りの方向・姿勢・ひねりの回数)を並べた名前。採点規則の難度表には、すべての技がこの形で書かれています
  • 人名の技名:記述名に加えて、難度表の該当欄に選手名が添えられている技。実況や会話では、長い記述名の代わりにこちらが使われます

たとえば、ゆかの「後方伸身宙返り4回ひねり」は、採点規則では「Salto bwd. str. with 4/1 t.」と記述され、その欄に「Shirai / Nguyen」と名前が記されています。

なぜ体操の技に選手の名前がつくのか

技に名前を残すことは、競技の発展に貢献した選手への敬意を示す仕組みです。体操専門メディアのGymnastics Nowの解説記事も、一定以上の難度を超えた新技に創始者の名前をつけるのは、競技を前に進めた選手を称えるためだと説明しています。

実用面での理由もあります。体操の技は、宙返りの回数・姿勢・ひねり・持ち手などの組み合わせで成り立っており、記述名はどうしても長くなります。「抱え込み2回宙返り3回半ひねり」と言うより「ミナミ」と言うほうが、選手・コーチ・審判の間で素早く正確に伝わります。

技名は世界共通の「共通語」になる

人名の技名は、言語が違っても通じます。日本の選手が海外の大会で「Tsukahara」と言えば、どの国の審判にも同じ跳躍が伝わります。USA Gymnasticsの公式サイトが「現行のFIG採点規則に残っている米国選手名の技」を一覧にしているように、技名は各国の体操の歴史そのものでもあります。

なお、技名を覚えると演技の構成も読み解きやすくなります。体操競技の演技構成や難度点を手軽に確認したい場合は、Gymnastics AI — Dスコア計算アプリが便利です。FIG 2025–2028 採点規則に準拠し、790以上の技データベースを搭載しています。

体操の技に名前がつく条件|FIG採点規則の5つのルール

体操の技に名前がつく条件|FIG採点規則の5つのルール

採点規則 Article 5.8 が定める条件

男子体操の技名のつけ方は、FIG男子採点規則 2025–2028の「Article 5.8 MAG Naming of New Elements(新しい技の命名)」に定められています。条文の要点をまとめると次の表のとおりです。

条件

採点規則の内容(要約)

ポイント

1. 実施する大会

FIGの公式大会(Group 1・2・3)で、国際的に初めて実施されること

世界選手権・五輪だけでなく、規則上はGroup 2・3の大会も対象

2. 難度

C難度以上であること

A・B難度の新技には名前がつかない

3. 成功の基準

難度として認められる形で、転倒なしに実施すること

転倒した場合は対象外

4. 最終確定

難度と名前は、技術委員会(TC)が実施内容を分析した後に確定

大会での暫定評価がそのまま確定するわけではない

5. 同時成功

同じ大会で複数の選手が同じ新技を実施した場合、全員の名前がつく

「Shirai / Nguyen」のような併記の技がある

申請から命名までの流れ

新しい技に名前がつくまでには、大会の前と後に手続きがあります。採点規則の条文(Article 2.2 と Article 5.8)から流れを整理すると、次のようになります。

  1. 大会前:選手またはコーチが、ポディウムトレーニング(本番会場での公式練習)の24時間前までに、上級審判長(Superior Jury President)へ新技の難度評価を文書で申請する(Article 2.2)
  2. 大会中:新技を転倒なく実施し、大会で暫定の難度評価を受ける
  3. 大会後:選手の所属連盟が、新技の映像をFIG技術委員会の委員長へできるだけ早く提出する。大会の技術代表(TD)も、公式映像・コーチが提出した図・暫定評価の詳細を提出する(Article 5.8)
  4. 確定:技術委員会が分析し、難度と技名を確定する。確定した技は採点規則の難度表に名前つきで載る

つまり「大会で成功させた瞬間に名前がつく」のではなく、事前申請・実施・事後の映像審査という3段階を経て正式に決まります。

よくある誤解「世界選手権か五輪でないと名前がつかない」

「技に名前がつくのは世界選手権か五輪で成功したときだけ」と説明されることがありますが、現行の男子採点規則では、対象はFIGのGroup 1・2・3の大会です。英語版Wikipediaの採点規則の項目も、命名の対象として世界選手権・五輪に加えてFIGワールドカップを挙げています。

実際に、南一輝選手のゆかの技「ミナミ」は2023年のドーハ・ワールドカップで成功させた技です。2025年に名前がついた男子の技も、ドーハ・ワールドカップやアジア選手権で実施されたものでした。

日本人の名前がついた体操の技|種目別に紹介

日本人の名前がついた体操の技|種目別に紹介

ゆかの技名:シライ・ミナミ

ゆかで最も有名な日本人の技名は「シライ」です。Number Webの2013年の記事によると、白井健三選手は高校2年生で出場した2013年の世界選手権で、ゆかの「後方伸身宙返り4回ひねり」と跳馬の「伸身ユルチェンコ3回ひねり」を成功させ、両方に「シライ」の名前がつきました。

白井選手の名前がついた技は、英語版Wikipediaによるとゆか・跳馬あわせて6つあります。現行の採点規則のゆかの難度表で確認できるものは次のとおりです。

技名

採点規則の記述

日本語での呼び方

シライ(Shirai / Nguyen)

Salto bwd. str. with 4/1 t.

後方伸身宙返り4回ひねり

シライ2

Salto fwd. str. with 3/1 t.

前方伸身宙返り3回ひねり

シライ3

Double salto bwd. str. with 3/1 t.

後方伸身2回宙返り3回ひねり

ミナミ

Double salto bwd. tucked with 7/2 t.

後方抱え込み2回宙返り3回半ひねり

「ミナミ」は南一輝選手の技で、2023年11月にFIGが承認した新技の1つです。Gymnastics Nowによると、承認時の難度はH(0.8)でした。

跳馬の技名:ツカハラ・カサマツ・シライ・ヨネクラ

跳馬は日本人の技名が特に多い種目です。跳馬は他の種目と違い、技ごとに点数(難度点)が決まっています。現行の採点規則の跳馬の難度表から、日本人の名前がついた主な技と点数を抜き出すと次のとおりです。

技名

採点規則の記述

難度点(2025–2028)

ツカハラ

Tsuk. tucked(ツカハラ跳び 抱え込み)

1.8

カサマツ

Tsuk. tucked 1/1 t.(抱え込みツカハラ1回ひねり)

2.4

シライ(Shirai, KIM Hee Hoon)

Yur. str. 3/1 t.(伸身ユルチェンコ3回ひねり)

5.2

シライ2

Yurchenko straight 7/2 t.(伸身ユルチェンコ3回半ひねり)

5.6

ヨネクラ

Tsuk. str. 7/2 t.(伸身ツカハラ3回半ひねり)

5.6

「ツカハラ」は、1968年から1976年の五輪で金メダル5個を獲得した塚原光男選手の名前です。跳馬に側転(ロンダート)の形で着手し、後方宙返りに入る跳び方の総称になっています。採点規則でも、跳馬のグループIIIは「側転とび・ツカハラ跳び(ひねりを含む)と後方2回宙返り系」と定義されており、技名がそのまま分類名として使われています。笠松茂選手の「カサマツ」も、規則上は「同等のツカハラ跳びと同じ価値」と定められています。

「ヨネクラ」は米倉英信選手の技で、2019年のワールドカップ・メルボルン大会で成功させ、同年に採点規則に加えられました。跳馬の技の詳しい分類は跳馬の種目別難度一覧で解説しています。

鉄棒・平行棒の技名:ツカハラ・モリスエ・ミヤチ

塚原光男選手の名前は鉄棒にも残っています。英語版Wikipediaによると、採点規則は「後方抱え込み2回宙返り1回ひねり」(いわゆる月面宙返り・ムーンサルト)を、ゆかと鉄棒で初めて実施した選手として塚原選手を記載しています。現行の鉄棒の終末技の表にも「Tsukahara」の名前が残っています。

  • ミヤチ(鉄棒):採点規則の記述は「Kovacs straight with 2/1 turn」(伸身コバチ2回ひねり)。宮地秀享選手の名前です
  • モリスエ(平行棒):1984年ロサンゼルス五輪の鉄棒金メダリスト、森末慎二選手の名前がついた平行棒の技です
  • ツカハラ(鉄棒の終末技):後方抱え込み2回宙返り1回ひねり。ゆかでも同じ動きを塚原選手が初めて実施しています

鉄棒の離れ技に多い人名(トカチェフ・コバチ・コールマンなど)は鉄棒の離れ技の解説記事で詳しく紹介しています。

体操の技名と難度の関係|名前がつくとDスコアは変わる?

難度はA(0.1)からJ(1.0)の10段階

技に名前がついても、それだけで点数が上がるわけではありません。点数を決めるのは技の難度です。採点規則 Article 7.1では、跳馬以外の5種目の難度価値を次のように定めています。

難度

A

B

C

D

E

F

G

H

I

J

価値点

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

名前がつくのはC難度(0.3)以上の新技だけなので、人名の技は総じて難しい技だといえます。ただし、技名はその技を「誰が最初に成功させたか」を示すものであり、難度は動きの中身で決まります。

名前は残っても難度は規則改定で変わる

採点規則は4年ごとに改定され、技の難度が見直されることがあります。たとえば「ヨネクラ」は、英語版Wikipediaでは承認当時の点数が6.0と紹介されていますが、2025–2028年版の採点規則では5.6です。名前はそのまま残り、点数だけが変わる例です。

そのため、技の難度を調べるときは「技名を知っている」だけでなく、最新の採点規則で何難度かを確認する必要があります。実際の演技構成でDスコアがどう変わるか試してみたい方には、Gymnastics AIがおすすめです。技を選んで並べるだけで、難度点・グループ加点・連続技ボーナスを自動計算できます。

Dスコアに数えられる技は8つ

人名の高難度技を入れても、Dスコアには上限のある数え方が適用されます。2025–2028年版の採点規則では、跳馬以外の種目は終末技を含む8つの技の難度価値を合計します(終末技+それ以外の上位7技)。同じ技グループからは最大4技までしか数えられません。

  • 数える技:終末技1つ+それ以外で価値の高い7技(合計8技)
  • 同一の技グループからは最大4技まで
  • これに技グループ要求(構成要件)の加点などが加わる

Dスコアの基本は体操の採点規則とDスコア・Eスコアの解説で詳しく説明しています。

体操の技名の調べ方|採点規則の難度表と技データベース

採点規則の難度表で調べる

一次資料は、FIGの公式ルールページで公開されている採点規則です。難度表は種目ごと・技グループごとに並んでおり、各技に番号(Code Identification Number)が振られています。人名の技は、記述名の下に選手名が添えられています。

  1. 種目のセクションを開く(ゆか・あん馬・つり輪・跳馬・平行棒・鉄棒)
  2. 技グループ(EG I〜IV)を選ぶ
  3. 記述名の下にある選手名と、列の難度(A〜J)を確認する

技名で調べるときの3つの注意点

  • 番号つきの技名:同じ選手が複数の技を成功させると「シライ2」「シライ3」のように番号がつきます。番号を省くと別の技と混同します
  • 併記された技名:「Shirai / Nguyen」「Shirai, KIM Hee Hoon」のように、複数の選手名が並ぶ技があります
  • 種目ごとに別の技:「ツカハラ」は跳馬ではツカハラ跳び、鉄棒では終末技を指します。種目とセットで確認しましょう

技データベースとアプリで調べる

採点規則のPDFは英語で分量も多いため、日本語で調べたい場合は当サイトの体操の技データベースが便利です。技名・種目・難度から技を探せます。代表的な技を種目別に知りたい方は体操の技一覧(男子6種目)もあわせてご覧ください。

最近の新技と技名の傾向|2023年以降の例

2023年に承認された男子の新技

Gymnastics Now(2023年11月18日)によると、FIGは2023年に男女あわせて9つの新技を承認しました。男子は次の5つです。

技名

選手(国)

種目

承認時の難度

ミナミ

南一輝(日本)

ゆか

H

ジャーマン

ジェイク・ジャーマン(英国)

ゆか

I

リード

マイケル・リード(ジャマイカ)

あん馬

E

ゾウ2

鄒敬園(中国)

つり輪

E

バルベルデ

アンドレス・バルベルデ(コスタリカ)

鉄棒

E

2025年に名前がついた男子の技

Gymnastics Nowのまとめでは、2025年に名前がついた技は男女で5つです。男子は次の3つでした。

  • James Hall(英国・平行棒):E難度。2025年ドーハ・ワールドカップで実施
  • Jesse Moore(オーストラリア・あん馬):G難度。2025年ドーハ・ワールドカップで実施
  • Mahdi Olfati(イラン・跳馬):5.6。2025年アジア選手権で実施

傾向:ワールドカップや大陸選手権でも名前がつく

2023年以降の例を見ると、新技の多くはワールドカップや大陸選手権で生まれています。世界選手権や五輪よりも出場の機会が多い大会で新技に挑み、名前を残す流れです。種目も、ゆか・あん馬・つり輪・平行棒・鉄棒・跳馬と幅広く分かれています。

新技は難度の見直しや技術委員会の分析を経て採点規則に載るため、最新の情報はFIGの発表と採点規則の改訂版で確認するのが確実です。

まとめ

  • 体操の技名には、動きを言葉にした「記述名」と、最初に成功させた選手の「人名」の2種類がある
  • 男子では、FIGのGroup 1〜3の大会で、C難度以上の新技を転倒なく初めて成功させ、技術委員会の分析を経ると名前がつく(採点規則 Article 5.8)
  • 同じ大会で複数の選手が成功させた場合は全員の名前がつく(例:Shirai / Nguyen)
  • 日本人の技名は、ゆかの「シライ」「ミナミ」、跳馬の「ツカハラ」「カサマツ」「ヨネクラ」、鉄棒の「ミヤチ」などがある
  • 名前がついても点数が上がるわけではない。難度は規則改定で変わることがあるため、最新の採点規則で確認する

技名がわかると、演技の難しさや構成の意図が読み取れるようになります。演技構成のDスコアを手軽にシミュレーションしたい方は、Gymnastics AIをぜひお試しください。iOS/Android対応で無料で使えます。

あわせて読みたい

Read in English
岩﨑大翔
Author

岩﨑大翔 Daito Iwasaki

体操競技歴15年(全日本選手権出場)。音楽活動、AI駆動開発、体操の3つのフィールドで活動中。それぞれの専門知識と経験を活かして発信しています。

D-Score App

体操Dスコア計算アプリ

FIG採点規則に対応したDスコア自動計算アプリ。種目別の演技構成を入力するだけで演技価値点を算出します。

D-Scoreを試す

関連記事