女子ゆかの技一覧|宙返り(タンブリング)の種類と難度
女子ゆかの技一覧のうち、宙返りを中心としたタンブリングの種類・名前・難度をFIG女子採点規則(2025–2028)の技表をもとに解説。前方・後方・アラビアンの違い、抱え込み・屈身・伸身とひねりの数え方、シリバスやバイルスなど名前の付いた技、アクロラインと構成要求の評価まで整理します。
女子ゆかの技一覧のなかでも、観客がいちばん沸くのが宙返りを中心とした「タンブリング(アクロバット)」です。助走から一気に跳び上がる数秒のあいだに、前方か後方か、何回転したか、何回ひねったかで、技の名前も難度も大きく変わります。本記事では、FIGの女子採点規則(2025–2028年版)の技表をもとに、女子ゆかのタンブリングの種類・名前・難度と、採点でどう評価されるかを整理します。
「バイルス」「シリバス」といった技名をテレビで聞いても、何が違うのか分かりにくいものです。技の分類と読み方を押さえれば、10月の世界体操2026でも演技の見え方が変わります。
女子ゆかのタンブリングとは|技一覧の前に押さえる基本

アクロ技とダンス技の違い
女子のゆか(床運動)の技は、大きく「ダンス技」と「アクロ技」に分かれます。ダンス技はリープ(跳躍)やジャンプ、ターンなど足で行う動き、アクロ技は宙返りや転回など体が逆さまになる動きです。ダンス技については女子ゆかのジャンプ・リープ・ターンの解説記事で詳しく扱っているので、本記事ではアクロ技、つまりタンブリングに絞って解説します。
FIG女子採点規則 2025–2028では、ゆかの演技で難度に数える技は最大8つ(終末技を含む)で、そのうち最低3つがダンス技、最低3つがアクロ技、残り2つはどちらでもよいと定められています。つまり、タンブリングはDスコア(演技価値点)の半分近くを占める重要な要素です。
アクロライン(タンブリングのひと続き)の定義
ゆかの対角線を走って行う一続きのタンブリングを、採点規則では「アクロライン」と呼びます。規則上のアクロラインは、空中局面(フライト)のある技を最低2つ直接つなぎ、そのうち1つが宙返りであるものです。たとえば「ロンダート → 後転とび → 後方宙返り」は、すべて空中局面があり、最後が宙返りなのでアクロラインになります。
- アクロラインは1演技で最大4本まで
- 5本目以降のアクロラインの技は難度に数えない
- 最後に数えたアクロラインより後に行ったアクロ技も難度に数えない
- 宙返りから足で着地できなかった場合も、アクロラインとして扱われる
この定義は英国体操協会の審判向け資料(BG WTC Floor Help Sheet 2025–2028)でも同じ内容で整理されています。
演技の構成とタンブリングの位置づけ
ゆかは12m×12mのスプリングフロアの上で行い、女子の演技時間は90秒以内です(Wikipedia「Floor (gymnastics)」)。国際大会レベルの演技では最大4本のタンブリングに、ダンス技・ターン・振付をつないで90秒を構成します。
タンブリングの合間をつなぐのは音楽と振付です。どこでタンブリングに入り、どこで決めポーズを見せるかは、曲の展開と切り離せません。演技構成に合わせた曲づくりは、元体操選手でアーティストでもある制作者に競技用フロア音源の制作として相談できます。
ゆかの技一覧(アクロ)の分類|3つのグループ

手支持系(グループ3)
FIGの技表では、女子ゆかの技は5つのグループに分かれています。グループ1が跳躍、グループ2がターンなどのダンス技で、アクロ技はグループ3〜5です。グループ3は「手で支える技」で、倒立、前方転回(ハンドスプリング)、ロンダート、後転とび(フリックフラック)などが入ります。
ロンダートや後転とびはA難度ですが、単独で見せる技というより、宙返りに勢いをつける「つなぎ」として使われるのが一般的です。前方転回に1回ひねりを加えた技は「モステパノワ」の名前でC難度に掲載されています。
前方・側方宙返り(グループ4)
グループ4は前向きに回る宙返りと横向きの宙返りです。前方宙返り(抱え込み・屈身)はA難度、伸身の前方宙返りはB難度から始まり、ひねりの回数で難度が上がります。手をつかない側方宙返り(側転)や、後ろ向きに踏み切って半ひねりしてから前に回る「アラビアン」もこのグループです。
後方宙返り(グループ5)
グループ5は後ろ向きの宙返りで、女子ゆかの高難度技の多くがここに集まっています。後方宙返り(抱え込み・屈身・伸身)のA難度から、2回宙返り+3回ひねりのJ難度まで幅があります。低く速く回る「テンポ宙返り(ウィップ)」もグループ5に入ります。
グループ | 内容 | 代表的な技 |
|---|---|---|
3 手支持系 | 手をついて回る・支える技 | ロンダート、後転とび、前方転回、モステパノワ |
4 前方・側方宙返り | 前向き・横向きに回る宙返り | 前方宙返り、アラビアン、ポトコパエワ、ドスサントス |
5 後方宙返り | 後ろ向きに回る宙返り | 後方伸身ひねり、シリバス、ムーアズ、バイルス |
宙返りの姿勢とひねりの数え方

抱え込み・屈身・伸身の3姿勢
宙返りの名前は「回る方向+姿勢+回転数+ひねり」で組み立てられています。姿勢は次の3つです。
- 抱え込み(タック):膝を曲げて胸に引きつける。回転半径が小さく、いちばん回りやすい
- 屈身(パイク):膝を伸ばしたまま腰で体を折る
- 伸身(レイアウト):体をまっすぐ伸ばしたまま回る。回転半径が大きく、同じ回転数なら最も難しい
同じ「後方2回宙返り」でも、抱え込みはD難度、伸身はF難度と、姿勢だけで難度が2段階変わります(FIG女子採点規則の技表)。
ひねり(1/2・1/1…)の数え方
ひねりは体の縦軸まわりの回転で、180°を「1/2(半ひねり)」、360°を「1/1(1回ひねり)」と数えます。後方伸身宙返りの場合、半ひねり・1回ひねりはB、1回半・2回ひねりはC、2回半はD、3回ひねりはE、3回半はFと、半ひねりごとに難度が上がっていきます。
2回宙返り+ひねりの読み方
高難度技では「2回宙返り」と「ひねり」を組み合わせます。英語では2回宙返りを「ダブル」、2回ひねりを「ダブルツイスト」と呼ぶため、2回ひねりを加えた後方抱え込み2回宙返りは「ダブルツイスティング・ダブルタック(ダブルダブル)」と呼ばれます。中継で「ダブルダブル」と聞こえたら、2回宙返りの間に2回ひねっている技だと読み取れます。
女子ゆかの技一覧|難度別の代表的な宙返り
後方宙返り系の難度一覧
FIG女子採点規則(2025–2028)の技表から、後方宙返り系の主な技を難度順に並べると次のとおりです。難度値はA=0.10、B=0.20…J=1.00と0.10刻みで上がります。
難度(価値点) | 後方宙返り系の技 |
|---|---|
A(0.10) | 後方宙返り(抱え込み・屈身・伸身)、テンポ宙返り |
B(0.20) | 後方伸身宙返り半ひねり、後方宙返り1回ひねり、テンポ宙返り半ひねり |
C(0.30) | 後方伸身宙返り1回半ひねり・2回ひねり、テンポ宙返り1回ひねり |
D(0.40) | 後方伸身宙返り2回半ひねり、後方抱え込み2回宙返り、後方屈身2回宙返り |
E(0.50) | 後方伸身宙返り3回ひねり、後方2回宙返り1回ひねり(抱え込み・屈身) |
F(0.60) | 後方伸身宙返り3回半ひねり、後方抱え込み2回宙返り1回半ひねり、後方伸身2回宙返り |
G〜J(0.70〜1.00) | バイルス(G)、チュソビチナ(H)、シリバス(H)、ムーアズ(I)、バイルス2(J) |
前方・側方宙返り系の難度一覧
難度(価値点) | 前方・側方宙返り系の技 |
|---|---|
A(0.10) | 前方宙返り(抱え込み・屈身)、側方宙返り、手をつかない側転・前方転回 |
B(0.20) | 前方伸身宙返り、前方抱え込み宙返り半ひねり・1回ひねり、アラビアン宙返り |
C(0.30) | 前方伸身宙返り1回ひねり・1回半ひねり |
D(0.40) | 前方伸身宙返り2回ひねり(タラセビッチ) |
E(0.50) | 前方抱え込み2回宙返り(ポトコパエワ)、アラビアン抱え込み2回宙返り、前方伸身宙返り2回半ひねり |
F(0.60) | 前方抱え込み2回宙返り半ひねり、アラビアン屈身2回宙返り(ドスサントス)、前方伸身宙返り3回ひねり |
H(0.80) | アラビアン伸身2回宙返り(ドスサントス2) |
難度表の読み方のコツ
2つの表を並べると、次のような傾向が分かります。
- 同じ回転数なら「抱え込み → 屈身 → 伸身」の順に難しくなる
- 1回宙返りではひねりの回数、2回宙返りではひねりと姿勢の組み合わせが難度を決める
- 同じ抱え込み2回宙返りでも、前方(E)のほうが後方(D)より高く評価されている
技の名前と難度の関係は男子にも共通する考え方です。男子6種目の代表技は体操の技一覧(男子6種目)で解説しています。
名前の付いたタンブリング技|シリバス・バイルスなど
技に選手名が付く仕組み
体操では、世界選手権や五輪などFIGの主要大会で新しい技を初めて成功させ、FIGに新技として認められると、その選手の名前が技に付けられます。女子ゆかのタンブリングにも、時代ごとの名選手の名前が数多く残っています。
後方2回宙返り系の名前付き技
技名 | 内容 | 難度 | 初実施 |
|---|---|---|---|
ムヒナ | 後方抱え込み2回宙返り1回ひねり | E | 1977年 |
シリバス | 後方抱え込み2回宙返り2回ひねり | H | 1988年ソウル五輪 |
チュソビチナ | 後方伸身2回宙返り1回ひねり | H | 1991年世界選手権 |
バイルス | 後方伸身2回宙返り半ひねり | G | 2013年世界選手権 |
ムーアズ | 後方伸身2回宙返り2回ひねり | I | 2013年世界選手権 |
バイルス2 | 後方抱え込み2回宙返り3回ひねり | J | 2019年世界選手権 |
難度はFIG女子採点規則(2025–2028)の技表、初実施の大会はBalance Beam Situationの名前付き技年表によります。なかでも「バイルス2」は、Wikipedia「Gymnastics elements named after Simone Biles」によると女子体操の全種目で最も高いJ難度として評価されている技です。
前方・アラビアン系の名前付き技
- ポトコパエワ:前方抱え込み2回宙返り(E)。半ひねりを加えた技も同じ名前でF難度
- ドスサントス:アラビアン屈身2回宙返り(F)。伸身で行う技もドスサントスの名でH難度
- タラセビッチ:前方伸身宙返り2回ひねり(D)
- マルドナド:前方伸身宙返り3回ひねり(F)
前方・アラビアン系の2回宙返りは、同じ姿勢の後方2回宙返りより高い難度に設定されています(抱え込みで後方D・前方E、屈身で後方D・アラビアンF)。構成要求の「前方宙返り」を満たしながら難度も積み上げられる系統です。
採点でタンブリングはどう評価される?|構成要求と連続
構成要求(CR)はアクロラインの中で
ゆかのDスコアには、4つの構成要求(各0.50、合計2.00)があります。そのうち3つがタンブリングに関するものです。
- 2つの異なるリープまたはホップによるダンスパッセージ(ダンス技)
- 1回ひねり(360°)以上のひねりを含む宙返り
- 2回宙返り
- 後方宙返りと前方宙返りを、同じまたは別のアクロラインで行う(手をつかない側転・前方転回=エアリアルは前方宙返りとして数えない)
2〜4の要求はアクロラインの中で行う必要があります。また、Gymnast Gemの女子ゆか解説が指摘するとおり、1回宙返りを2つ続けても「2回宙返り」の要求の代わりにはなりません。構成要求の満たし方を含めた採点全体の流れは女子ゆかの採点解説にまとめています。
タンブリングの連続(CV)
宙返りを続けて行うと、連続技の加点(CV)がつきます。手をつかない宙返り同士を直接つなぐ場合、A+D・C+Cは0.10、A+E・B/C+Dは0.20です。ロンダートや後転とびをはさんで宙返りをつなぐ「間接連続」でも、B+D・A+A+Dで0.10、C+D/E・A+A+Eで0.20がつきます(FIG女子採点規則 13.4)。
D難度の宙返りからBのダンス技、E難度の宙返りからAのダンス技へ直接つなぐ「ミックス連続」もあり、この順番でのみ0.10が認められます。
終末技とDMTボーナス
最後に数えたアクロラインが「終末技(DMT)」になり、そのアクロラインで最も難度の高い技が終末技として数えられます。アクロラインが1本だけの場合は終末技が認められず、終末技がないと最終得点から0.50引かれます(BG WTC Floor Help Sheet)。アクロラインが3本以上ある演技で、D難度以上の終末技を転倒せずに行うと0.20のボーナスがつきます。
タンブリングまわりで起きやすい減点
Eスコア(実施点)では、タンブリングの配置そのものにも減点があります。
- 演技がいきなりアクロラインから始まる(0.10)
- 前のアクロラインと同じ対角線で、振付をはさまずに次のアクロラインを行う(各0.10)
- 最後のアクロ技のあとに振付がなく演技が終わる(0.10)
- 演技の最後で動きと音楽の拍が合っていない(0.10)
タンブリングの前後をどんな振付と音でつなぐかは、構成全体の評価に直結します。音の山場とアクロラインの位置を合わせる考え方は競技用フロア音源の制作でも重視しているポイントで、採点規則を踏まえた編集やオリジナル作曲で対応できます。
観戦で女子ゆかの技を見分けるポイント|世界体操2026に向けて
踏み切りの向きで系統を見分ける
技を見分ける最初の手がかりは踏み切りの向きです。ロンダート・後転とびから後ろ向きに跳べば後方系、前向きに走ってそのまま跳べば前方系、後ろ向きに踏み切ってすぐ半ひねりして前に回るのがアラビアン系です。
空中の姿勢と回転数を見る
次に、空中で膝が曲がっているか(抱え込み)、体が伸びているか(伸身)を見ます。2回宙返りは回転が速く、伸身の2回宙返りは体が大きく見えるので、慣れると区別できるようになります。ひねりは腕の巻き込みと体の向きの変化に注目すると数えやすくなります。
世界体操2026女子ゆかの見どころ
世界体操2026はオランダ・ロッテルダムで10月17日から25日まで行われ、女子ゆかの種目別決勝は10月25日(現地時間14:00)に予定されています(Wikipedia「2026 World Artistic Gymnastics Championships」)。日本女子代表には、2025年世界選手権ゆかの金メダリストである杉原愛子選手が名を連ねています(NBC Sports 2025年世界選手権結果)。
連覇がかかる杉原選手の見どころは世界体操2026女子ゆかの見どころ記事で、女子4種目のルールは女子体操の種目一覧で紹介しています。本記事の難度表と合わせて見ると、決勝の得点差がどこから生まれているかが読み取りやすくなります。
まとめ
- 女子ゆかのタンブリングは、FIGの技表でグループ3(手支持系)・4(前方・側方宙返り)・5(後方宙返り)に分かれる
- 宙返りの難度は「方向+姿勢(抱え込み・屈身・伸身)+回転数+ひねり」で決まり、A(0.10)からJ(1.00)まである
- アクロラインは空中局面のある技を2つ以上直接つなぎ、うち1つが宙返りであるもの。1演技で最大4本
- 構成要求のうち3つ(1回ひねり以上の宙返り・2回宙返り・前方と後方の宙返り)はアクロラインの中で満たす
- シリバス(H)、ムーアズ(I)、バイルス2(J)など、名前の付いた高難度技は後方2回宙返り系に集中している
タンブリングをどこに置き、どの音で決めるかまで考えた演技構成をつくりたい方は、競技用フロア音源の制作からお気軽にご相談ください。