音楽著作権の基本|JASRACとNexToneの仕組みを解説
音楽著作権を管理する日本の2大団体JASRACとNexToneの仕組みと違いをDTMer目線で徹底解説。信託契約・委任契約の違い、管理範囲、手数料、YouTube対応まで、楽曲制作を行うすべてのクリエイターが知っておくべき著作権の基礎知識を解説します。
自宅スタジオでオリジナル曲を制作するDTMerにとって、音楽著作権は避けて通れないテーマです。「JASRAC」や「NexTone」という名前は耳にしたことがあっても、両者の違いや具体的な仕組みまで把握している人は多くありません。著作権の基礎知識がなければ、知らないうちに他人の権利を侵害してしまったり、逆に自分の楽曲が無断使用されても気づかなかったりするリスクがあります。この記事では、JASRACとNexToneの仕組みと違いをわかりやすく解説し、DTMerが知っておくべき著作権の実践的な知識を整理します。
音楽著作権とは?DTM制作で発生する権利の基礎

著作権は楽曲完成と同時に自動発生する
日本では、楽曲を創作した瞬間に著作権が自動的に発生します。登録や申請は一切不要で、作詞・作曲が完成した時点で権利が保護されます。これを「無方式主義」と呼び、文化庁の著作権制度に基づいています。
著作権の保護期間は、著作者の死後70年間です(2018年の著作権法改正以前は50年)。DTMで制作したオリジナル楽曲も例外ではなく、プロジェクトファイルを保存した瞬間から保護が始まります。保護期間を過ぎた楽曲はパブリックドメインとなり、誰でも自由に利用できるようになります。
著作財産権を構成する支分権の種類
著作権は単一の権利ではなく、複数の「支分権」から構成されています。DTMerが特に理解しておきたい支分権は以下のとおりです。
支分権 | 内容 | DTMでの具体例 |
|---|---|---|
複製権 | 楽曲をコピーする権利 | CDプレス、音楽ファイルのダウンロード配信 |
公衆送信権 | インターネットで送信する権利 | ストリーミング配信、YouTube投稿 |
演奏権 | 公衆の前で演奏・上演する権利 | ライブ演奏、店舗BGMとしての使用 |
翻案権 | 既存作品をアレンジする権利 | カバー曲のアレンジ、リミックス制作 |
譲渡権・貸与権 | 物品として販売・貸し出す権利 | CD販売、レンタル提供 |
上映権・口述権 | 公の場で上映・朗読する権利 | 映像作品でのBGM使用、朗読配信 |
JASRACとNexToneは、これらの支分権を権利者に代わって管理します。ただし後述するように、両者の管理範囲には違いがあります。
DTM制作における著作権の所在
DTMで制作した楽曲の著作権は、基本的に作詞者・作曲者に帰属します。複数人で共同制作した場合は「共同著作物」となり、すべての著作者が権利を共有します。
サンプルパックやループ素材を使用する際は、そのライセンス条件を必ず確認する必要があります。「著作権フリー」と表記されていても、商用利用を制限しているものや、再配布・再販売を禁止しているものも存在します。購入前にEULA(使用許諾契約)を確認することが重要です。
なお、著作権とは別に「著作隣接権」も存在します。演奏家・レコード製作者・放送事業者に与えられる権利で、市販CDの音源をそのまま使用する場合などには、著作権の許諾に加えてレコード会社への著作隣接権の許諾も必要となります。
著作権管理団体が必要な理由と役割

個人では管理しきれない著作権
音楽著作権を個人で管理するには、現実的に大きな限界があります。たとえば、自分の楽曲がテレビ番組のBGMとして使われた場合、放送局に直接連絡して使用料を請求する必要があります。しかし、自分の楽曲がどこでいつ使われたかを網羅的に把握することは、個人では不可能に近いです。
国内外のカラオケ店舗、ストリーミングサービス、放送局、BGMサービスなど、音楽が使われる場所は無数に存在します。これらすべてと個別に交渉し、使用料を徴収するのはプロのアーティストでも難しく、専門的な管理機関に委託することが現実的な選択肢です。
著作権管理団体の3つのコア業務
JASRACやNexToneのような著作権等管理事業者は、以下の3つの業務を担います。
- 利用許諾:音楽を利用したい事業者(放送局、カラオケ会社、動画プラットフォーム等)に対して、権利者に代わって一括で利用許諾を与える
- 著作権使用料の徴収:利用者から管理規程に基づいた著作権使用料を徴収する
- 権利者への分配:徴収した使用料から管理手数料を差し引き、権利者(作詞者・作曲者・音楽出版社)に分配する
この仕組みにより、権利者は個別に交渉することなく、楽曲が利用されるたびに使用料を受け取ることができます。利用者側にとっても、個別に権利者へ許諾を得る必要がなく、手続きが大幅に簡素化されます。
日本の音楽著作権管理市場の現状
日本の音楽著作権管理市場は、JASRACとNexToneによる2社体制が続いています。JASRACが圧倒的なシェアを持ちながらも、2016年のNexTone設立以降、徐々に競争環境が生まれています。J-CAST会社ウォッチの分析でも「日本の著作権管理業界は今までJASRAC一強だった」と指摘されており、NexToneの参入が業界全体の柔軟化に貢献しています。
利用者にとっては、2社が競争することで管理手数料の低下や手続きの改善が期待されます。権利者にとっても、自分の活動スタイルに合った管理団体を選択できる環境が整いつつあります。
JASRACの仕組みを徹底解説

JASRACとは?85年以上の歴史を持つ非営利団体
JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)は、1939年に設立された日本最大の音楽著作権管理団体です。非営利法人として運営されており、テレビ・ラジオ放送、カラオケ、コンサート、インターネット配信など、ほぼすべての利用形態をカバーしています。
JASRACは国際著作権団体の連合組織「CISAC(国際著作権管理団体連盟)」にも加盟しており、世界125の国・地域の著作権管理団体とネットワークを構成しています。これにより、日本のアーティストの楽曲が海外で使用された際も、使用料を回収・分配することが可能です。
信託契約の仕組み:著作権がJASRACに移転する
JASRACへの著作権委託は「信託契約」という形式で行われます。信託契約では、契約期間中に著作権がJASRACに譲渡(移転)されます。これは著作権の所有権自体をJASRACに渡すことを意味するため、JASRACが権利者の代わりに訴訟を提起するなど、強力な権利保護が可能になります。
Internet Watchの著作権ビジネス解説によると、信託契約の場合は「管理作品が第三者に無断で利用された場合、JASRACが著作権者となって訴訟を提起することができる」一方、委任契約では権利者本人による対処が必要とされています。
申し込みからJASRACとの契約発効まで最短20日程度とされており、申込金・契約金・楽曲登録料は無料です。管理手数料は分配時に差し引かれます。
JASRACに委託する主なメリット
- 包括的な管理範囲:演奏権・複製権・公衆送信権など、ほぼすべての支分権をカバー
- 国際的な収益回収:CISACを通じて海外での楽曲使用料も回収可能
- 透明性の高い運営:非営利団体として徴収額・分配額を定期公表
- 安定した実績:85年以上の運営歴による信頼性の高い管理体制
- 初期費用ゼロ:申込金・契約金・楽曲登録料が無料
- YouTubeとの包括契約:YouTube等主要プラットフォームと包括契約済みのため、利用者の個別申請が不要
JASRACに委託する際のデメリットと注意点
- 著作権の移転:信託期間中は著作権がJASRACに移転するため、独自の料金設定や無料配布が制限される場合がある
- 楽曲の個別選択が難しい:原則としてすべての管理対象楽曲がJASRACの管理下に入る
- 個人直接登録の条件:個人の作詞・作曲家が直接登録するには費用と公的利用実績が必要
- 買取案件への影響:DTMerのための著作権法解説によると、信託後は地下アイドルや映像制作会社への楽曲買取提供が難しくなるケースがある
NexToneの仕組みを徹底解説
NexToneとは?デジタル時代の新世代著作権管理会社
NexTone(株式会社NexTone)は、2016年にイーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランスが統合して誕生した株式会社です。JASRAC一強時代を変えるべく設立された民間企業であり、デジタル・ストリーミング時代に対応した柔軟な著作権管理を強みとしています。
設立当初からYouTubeやSpotifyなどのデジタルプラットフォームとの連携を重視しており、著作権管理だけでなく楽曲のデジタルディストリビューションサービスも展開しています。
委任契約の仕組み:著作権が権利者に残る
NexToneへの著作権委託は「委任契約(取次ぎ)」という形式をとります。JASRACの信託契約と根本的に異なるのは、著作権がNexToneに移転しない点です。権利者は著作権を保持したまま、NexToneに管理を委任する形になります。
この仕組みにより、NexToneは「楽曲ごとの柔軟な管理」が可能になります。プロモーション目的の無料配信での使用料免除や、特定の利用者への指値による料金設定といった対応が可能です。一方で、委任契約のため、第三者による無断利用に対してNexTone自身が直接訴訟を提起することは難しく、法的対応は権利者自身が行う必要があります。
デジタル配信との強力な連携
NexToneはデジタル配信サービスとの連携を強みとしており、著作権管理だけでなく楽曲のデジタルディストリビューションサービスも提供しています。Apple Music・Spotify・YouTube Music・Amazon Musicなど、国内外の主要ストリーミングサービスへの配信が一括して依頼できます。
著作権管理と楽曲配信を一社で完結できるため、デジタル中心で活動するアーティストにとって利便性の高いサービスです。また、2022年からは演奏権の管理も一部開始しており、JASRACが管理していた領域へも着実に進出しています。
YouTubeにおけるNexToneの独自取り組み
NexToneはYouTubeとの関係においても独自の取り組みを行っています。Musicmanの報道によると、2024年7月1日よりNexToneはGoogle LLCから全世界のYouTube動画視聴における著作権使用料の直接徴収を開始しました。これにより管理作品の特定精度が向上し、権利者への分配スケジュールの早期化も実現しています。
NexTone管理楽曲をYouTube動画で使用した場合、NexToneの公式サイトによると、動画投稿者からの個別手続きは基本的に不要で、YouTube側が使用料の支払いを行う仕組みになっています。
JASRACとNexToneの違いを徹底比較
契約形態・管理範囲・組織形態の一覧比較
比較項目 | JASRAC | NexTone |
|---|---|---|
設立年 | 1939年 | 2016年 |
組織形態 | 一般社団法人(非営利) | 株式会社(営利) |
契約形態 | 信託契約(著作権が移転) | 委任契約(著作権が移転しない) |
演奏権(ライブ・BGM等) | 管理あり | 2022年より一部管理開始 |
複製権・公衆送信権 | 管理あり | 管理あり |
国際ネットワーク | CISAC加盟(125か国対応) | 非加盟(デジタルで一部対応) |
個人の直接契約 | 条件付きで可能 | 原則として法人(音楽出版社)のみ |
デジタル配信サービス | なし | あり(Spotify・Apple Music等) |
訴訟対応 | JASRACが直接提起可能 | 権利者自身が対応が必要 |
手数料と分配方法の違い
両者の管理手数料については、JASRACは文化庁への届け出制で、利用形態(演奏・放送・録音など)ごとに異なる率が設定されています。NexToneは競合するJASRACより柔軟な手数料設定を行っており、音楽主義の解説によると「使用料規程の分野ごとに異なる手数料率を設定している」とされています。
分配のタイミングについても違いがあります。JASRACは年4回(6月・9月・12月・3月)の分配期に分けて行われます。NexToneはデジタルを中心に、より細かい粒度でのデータに基づいた分配を志向しています。
個人DTMerはどちらに登録できるか
Frekul Tipsの解説によると、JASRACへの個人直接登録には27,000円の費用と1年以上の公的な音楽活動実績(放送・ライブ・CD発売等の実績)が必要です。NexToneは原則として法人(音楽出版社)のみを対象としており、個人の作詞家・作曲家が直接契約することは基本的にできません。
そのため、多くの個人DTMerは次のいずれかの方法で著作権管理を行うことになります。
- 音楽出版社と契約し、出版社経由でJASRACまたはNexToneに委託する
- JASRACへの個人直接登録の条件を満たしてから申請する
- デジタルディストリビューター(TuneCore等)の著作権管理オプションを活用する
DTMerが知るべき実践的な著作権ルール
他人の楽曲をYouTubeや配信動画で使う場合
他人の楽曲をYouTube動画や配信コンテンツで使用する場合、著作権者(または管理団体)からの許諾が必要です。JASRACのインターネット利用案内では、まず「お手続き診断」で必要な手続きを確認し、「JASRAC管理作品データベース(J-WID)」で当該楽曲がJASRACの管理下にあるかどうかを検索することが推奨されています。
YouTubeに動画投稿する場合、JASRACはYouTubeと包括契約を締結しているため、JASRAC管理楽曲のほとんどは個別許諾なしで動画内で使用できます。ただし、使用できるのは著作権(楽曲・歌詞)のみです。市販CDやダウンロード音源をそのまま使用する場合は、レコード会社等が持つ著作隣接権(原盤権)について別途許諾が必要な場合があります。
カバー曲・アレンジ・サンプリングの注意点
カバー曲を演奏・録音・配信する場合、JASRAC・NexTone管理楽曲であれば、規程内の使用料を支払うことで手続きが可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。
- アレンジ(翻案):著作者の同一性保持権(著作人格権)も関係するため、大きな改変を加える場合は原著作者への直接確認が必要になることがある
- 替え歌:歌詞を改変する場合、著作権者への事前確認と許諾が必要
- サンプリング:元の音源を直接使用する場合は著作隣接権の許諾も必要。著作権の許諾だけでは不十分
- AI音楽生成:既存楽曲を学習させたAIで生成した楽曲の著作権帰属については、現在も法整備が進んでいる段階であり、最新の法令情報を確認することが重要
自分の楽曲が無断使用された場合の対処
著作権管理団体に委託していない個人DTMerが、自分の楽曲が無断使用されていることに気づいた場合、自ら権利行使を行う必要があります。管理団体に委託していれば団体が代わりに対処しますが、非委託の場合は個人での法的対応が求められます。
日頃から以下のような記録を残しておくことで、権利の証明がしやすくなります。
- DAWのプロジェクトファイルと制作日時のメタデータを保管する
- 制作途中の録音・スケッチデータを残す
- クラウドストレージにバックアップを保存し、タイムスタンプを残す
- SNS等に制作過程を投稿して公的な記録を残す
自分の楽曲を守るための著作権管理の始め方
音楽出版社を通じた著作権管理の流れ
多くのプロアーティストは、音楽出版社を通じてJASRACやNexToneに楽曲を委託しています。DTMerのための著作権法②によると、音楽流通の一般的な構造は次のとおりです。
- 作詞家・作曲家が音楽出版社と出版契約を結び、著作権の一部(出版権)を譲渡する
- 音楽出版社がJASRACまたはNexToneに著作権管理を委託する
- 楽曲が利用されると、管理団体が使用料を徴収し、音楽出版社を通じて作詞家・作曲家に分配する
この構造を理解することで、楽曲リリース時に締結する出版契約の内容をより適切に評価できるようになります。作曲家としての収益モデルを設計するうえで不可欠な知識です。
JASRACへの直接登録の条件と手続き
個人の作詞家・作曲家がJASRACに直接登録するには、以下の条件が必要です。
条件 | 詳細 |
|---|---|
著作物の保有 | 自ら創作した著作物(楽曲・歌詞)を保有していること |
公的利用実績 | 直近1年以内に対価を伴う音楽活動実績(CD発売・放送使用・ライブ等)があること |
費用 | 登録費用として27,000円(税込)が必要 |
条件を満たせば、JASRACの権利者向けページからオンラインまたは郵送で申し込み可能です。申し込みから契約発効まで最短20日程度とされています。
デジタル配信会社を通じた著作権管理の活用
音楽出版社やJASRAC登録の条件を満たせない段階にある個人DTMerには、TuneCoreやDistroKidなどのデジタルディストリビューターを活用する方法があります。これらのサービスでは楽曲配信と合わせて著作権管理オプションが提供されており、TuneCore Japanの解説によると、ストリーミング配信から発生する著作権使用料の管理が個人でも行いやすくなっています。
ただし、これらのサービスはJASRACやNexToneとの直接委託とは異なる仕組みであり、管理できる権利の範囲や分配される使用料の種類が異なります。活動規模に応じて、最適な管理方法を選択することが重要です。DAWの使い方や音楽制作ワークフローについてはDAWの選び方完全ガイドも参照してください。
まとめ
音楽著作権の仕組みとJASRAC・NexToneの違いについて、要点を整理します。
- 音楽著作権は楽曲の完成と同時に自動発生し、登録不要で保護される(保護期間:著作者死後70年)
- JASRACは「信託契約」で著作権が一時的に移転し、演奏権を含む包括的な管理と国際ネットワーク対応が強み
- NexToneは「委任契約」で著作権が移転せず、デジタル配信・YouTubeとの連携に強みを持つ民間企業
- 個人DTMerがJASRACに直接登録するには27,000円と活動実績が必要;NexToneへの直接登録は原則として法人のみ
- 他人のJASRAC管理楽曲をYouTubeで使用する場合、包括契約により個別申請は基本的に不要(著作隣接権は別途確認が必要)
- 自分の楽曲を守るには制作過程の記録保管と、活動規模に合った著作権管理の仕組みを選ぶことが大切
- 個人DTMerの現実的な選択肢は、音楽出版社経由の委託・JASRACへの直接登録・デジタルディストリビューター活用の3つ