アスリートの副業・複業入門|競技と収入を両立するビジネスモデル
現役アスリートが副業・複業を始めるための完全ガイド。スポーツ庁が推進するデュアルキャリアの概念から、パーソナルトレーナー・SNS発信・Web制作など競技と両立しやすいアスリート副業7選、所属先との契約確認・確定申告の注意点まで体系的に解説します。
競技に打ち込みながら「収入の不安」を抱えるアスリートは少なくありません。アスリートの副業・複業は、経済的安定を得るだけでなく、引退後のキャリア形成にも直結する重要な戦略です。本記事では、デュアルキャリアの基本概念から、競技スケジュールと両立しやすい副業の種類、始め方、税務処理の注意点まで体系的に解説します。
デュアルキャリアとは何か|副業・複業の考え方の変化

「副業」から「デュアルキャリア」へのパラダイムシフト
かつてアスリートの「副業」といえば、競技収入を補うアルバイト程度の位置づけでした。しかし近年、競技活動と並行してビジネスキャリアを同等に育てる「デュアルキャリア」という考え方が広まっています。デュアルキャリアとは、アスリートが競技活動を続けながら、並行して職業や学業などのキャリアを築くことで、引退後も含めた生活とキャリアの安定を図る取り組みです。
欧州では2008年頃から重要視されてきたこの概念は、スポーツ庁も「第1期スポーツ基本計画」に盛り込み、国を挙げて支援体制を整備しています。副業・複業は単なる「お金稼ぎ」ではなく、アスリートとしての強みを社会に還元するキャリア形成の手段として捉え直す必要があります。
スポーツ庁が推進するキャリアサポートの現状
スポーツ庁は2017年にスポーツキャリアサポートコンソーシアムを創設し、国・関係団体・民間企業が連携してアスリートのキャリア形成を支援しています。2024年10月時点で加盟団体は121団体に増加しており、アスリートキャリアコーディネーター(ACC)118名が相談・支援を行っています(スポーツ庁 Web広報マガジン)。
また、Athlete Career Challenge カンファレンスを毎年開催し、デュアルキャリアの好事例を横展開しています。国家レベルで「現役中からのキャリア形成」が推進されていることは、アスリートが副業・複業に取り組む環境が整いつつあることを示しています。
アスリートが副業を始める3つの理由
- 収入の安定化:競技収入は試合結果・怪我・スポンサー状況に左右されやすく、副業による複数収入源が経済的安定をもたらします
- セカンドキャリアの準備:現役中にビジネス経験・スキルを積むことで、引退後のキャリア移行をスムーズにします
- 競技力の向上:副業を通じた社会経験や人脈がメンタル面を強化し、競技パフォーマンスの向上に好影響を与えることもあります
アスリートに向いている副業7選|競技と両立しやすいビジネスモデル

1. パーソナルトレーナー
アスリートが最も始めやすく、最も需要が高い副業の筆頭です。自身の競技経験・トレーニング知識を直接活かせるため、信頼性も高く集客しやすいのが特徴です。
- 時給相場:1,200〜2,500円(求人ボックス給料ナビ)
- 働き方:週末・夜間のセッション中心。オンライン指導で場所を問わず対応可能
- 資格:NSCA-CPTやNESTAなど民間資格があると信頼性が向上する(JOTスポーツトレーナー学院)
2. SNS・YouTube・ブログ発信
アスリートとしての専門知識や日々のトレーニング情報を発信するメディア活動です。フォロワーが増えることでスポンサー案件・アフィリエイト・企業タイアップなど多様な収益化が見込めます。詳しいSNS活用の方法はアスリートのSNS活用術も参照してください。
- 収益モデル:広告収入・案件収入・アフィリエイト・オンライン講座
- 強み:現役アスリートならではの一次情報・信頼性が差別化になる
- 注意点:所属チーム・スポンサーとの契約内容を事前に確認すること
3. Web制作・プログラミング
競技スケジュールに関係なく時間・場所を問わず作業できる点がアスリートに向いています。独学でも習得でき、クラウドソーシングで案件を受けることが可能です。
- 時給相場:1,200〜2,000円(スキルレベルにより大きく変動)
- 始め方:無料の学習サービス(Progate・ドットインストール等)から開始し、クラウドワークスなどで案件獲得
- 収益化期間:基礎習得に3〜6ヶ月、案件獲得まで6〜12ヶ月が目安
4. 動画編集・映像制作
スポーツ系YouTuberや企業の動画コンテンツ制作の需要は年々高まっています。スポーツ映像の編集は専門性が高く、競技経験を持つアスリートが差別化できる分野です。
- 時給相場:1,091〜2,500円(ATHLETE LIVE)
- ツール:Adobe Premiere Pro、DaVinci Resolve(無料版あり)
- 将来性:フリーランスとして独立可能。月30〜50万円の収入も目指せる
5. ライター・コンテンツ制作
スポーツメディア・体育系ウェブサイトへの寄稿や、競技専門の解説記事執筆は、競技経験者ならではの価値ある仕事です。未経験でも始めやすく、場所・時間の制約が少ないのが魅力です。
- 時給相場:1,000〜1,500円(経験・実績により上昇)
- 始め方:ランサーズ・クラウドワークスへの登録、専門メディアへの持ち込み提案
6. 部活動指導員・スポーツ指導
中学・高校の部活動外部指導員制度を活用した指導活動です。地域貢献にもなり、教員・コーチ資格取得の足がかりにもなります。
- 時給相場:1,500〜2,500円
- スケジュール:週1〜2回の放課後指導が中心。競技練習への影響が少ない
- 注意点:文部科学省の部活動改革方針に基づき、各自治体・学校の募集状況を確認すること
7. 複業プラットフォームを活用したビジネス経験
Another Works「複業クラウド for Sport」のようなアスリート向け複業マッチングサービスも登場しています。IT企業のアプリ開発・マーケティング・広報など、スポーツ以外のビジネス経験を積める点が特徴です。J1リーグ選手がIT企業とマッチングし、約5ヶ月でサービスリリースに至った事例も報告されています。
副業の選び方|競技スタイル別ビジネスモデルマップ

競技スケジュールから逆算した副業選択
アスリートが副業を選ぶ際の最優先事項は、競技スケジュールとの両立可能性です。以下の表を参考に、自分の競技形態に合った副業を選択してください。
競技形態 | 向いている副業 | 週あたり稼働目安 |
|---|---|---|
実業団・プロ(拘束時間長め) | ブログ・SNS発信、ライター | 5〜10時間 |
学生アスリート(平日練習) | Web制作、動画編集、SNS発信 | 10〜15時間 |
社会人アスリート(週末練習中心) | パーソナルトレーナー、部活指導員 | 15〜20時間 |
フリーアスリート(自己管理型) | 全般。複業プラットフォームの活用も | 20〜30時間 |
収益化モデルの3パターン
副業の収益化には大きく3つのパターンがあります。自分の強みと目標に合わせて選択することが重要です。
- 時間労働型:パーソナルトレーナー・部活指導など。時間に比例した安定収入が得やすい
- スキル販売型:Web制作・動画編集・ライターなど。スキルが上がるほど単価も向上
- 資産形成型:ブログ・YouTube・SNSなど。立ち上げに時間がかかるが、資産として積み上がる
副業を始めるステップ|具体的な準備と手順
Step 1: 所属先への確認と契約確認
副業を始める前に最初にすべきことは、所属チーム・団体・スポンサーとの契約内容の確認です。プロ選手やオリンピック強化指定選手の場合、肖像権・出演規定・副業禁止条項が設けられているケースがあります。
- 雇用契約書・選手契約書の副業・兼業条項を確認
- スポンサー契約の競合禁止条項(競合他社の宣伝禁止等)を確認
- 疑問点は所属チームの担当者や弁護士に相談する
Step 2: スモールスタートで始める
最初から大きな収入を目指さず、週5〜10時間のスモールスタートが推奨されます。競技パフォーマンスへの影響を確認しながら、徐々に稼働時間を増やしていくアプローチが長続きのコツです。
- 最初の3ヶ月は「競技に支障がないか」の検証期間と位置づける
- 副業の記録(時間・収入・疲労感)をつけて振り返る
- オフシーズンに新しい副業にチャレンジし、シーズン中は既存副業を継続する
Step 3: プラットフォームと人脈を活用する
副業の案件獲得には以下のプラットフォームが活用できます。
- クラウドソーシング:クラウドワークス・ランサーズ(ライター・Web制作・動画編集)
- アスリート専門エージェント:アスミチ・athletica(競技経験者向け求人・複業紹介)
- 複業プラットフォーム:Another Works(企業との複業マッチング)
- SNS経由:InstagramやXでの情報発信から直接依頼が来るケースも増加
時間管理と体調管理|競技パフォーマンスを落とさないための原則
副業が競技に与えるリスクと対策
副業の最大のリスクは、疲労蓄積による競技パフォーマンスの低下です。特にパーソナルトレーナーや部活指導員など身体を使う副業は、練習との相乗疲労に注意が必要です。競技コンディションの整え方については試合前のコンディショニングとピーキングも参考になります。
- 週の総稼働時間を決める:競技練習時間+副業時間が過去最大値を超えないように設定
- 試合前1〜2週間は副業を制限:ピーキング期間の副業稼働は最小限に
- 「競技ファースト」の原則を守る:副業の締め切りより競技のスケジュールを優先
時間の「スキマ」を活用するスケジューリング
アスリートの日常には、移動時間・待機時間・オフ日など「スキマ時間」が存在します。ライター・SNS発信・Web制作などの副業は、このスキマ時間を有効活用できます。大学生アスリートの時間管理術でも紹介しているように、スケジュールの可視化が両立の鍵です。
- 遠征中の移動時間:ライティング・SNS投稿・記事構成の作業に最適
- 練習前後の待機時間:SNS発信・メール対応・短時間の動画編集
- オフシーズン・長期休暇:本格的な副業立ち上げ・スキル習得に集中
税務・確定申告の基礎|アスリートが知るべき副業の税金
副業収入と確定申告の義務
副業による年間所得が20万円を超える場合、確定申告が義務となります(所得税法第120条)。申告を怠ると無申告加算税(本来の税額の15〜20%)が課されるリスクがあります。
副業の種類 | 所得区分 | 経費の扱い |
|---|---|---|
パーソナルトレーナー(フリーランス) | 事業所得 or 雑所得 | 器具・交通費・資格費用等が経費計上可 |
ライター・Web制作 | 事業所得 or 雑所得 | PC・通信費・書籍代等が経費計上可 |
YouTube・SNS広告収入 | 雑所得 | 機材・編集ソフト・通信費等が経費計上可 |
企業案件・スポンサー収入 | 雑所得 or 事業所得 | 関連する費用が経費計上可 |
青色申告で節税メリットを最大化する
副業収入が継続的・反復的な「事業所得」と認められる場合、青色申告(65万円控除)の適用が可能です。帳簿記録の義務が生じますが、節税効果は大きく、副業収入が安定してきたら検討に値します。詳細は国税庁の所得税に関するQ&Aを参照してください。
- 青色申告特別控除:最大65万円(e-Tax申告の場合)
- 赤字の繰越控除:副業の赤字を翌年以降3年間繰り越せる
- 家族への給与:青色事業専従者給与として経費化が可能
スポーツ選手特有の税務注意点
アスリートには、一般的なサラリーマンとは異なる税務上の注意点があります。国税庁の公式情報やスポーツ選手の税務に詳しい税理士への相談を推奨します。
- スポンサー収入の申告:現金・現物(用品提供等)を問わず収入計上が必要
- 奨学金の取り扱い:給付型奨学金は原則非課税だが、競技成績に連動する場合は要確認
- 海外試合の賞金:国際大会の賞金は外貨換算のうえ申告が必要
副業から起業・独立へ|成功するアスリートビジネスの作り方
スポーツ経験を強みにしたビジネス展開
副業を経て独立・起業に進むアスリートも増えています。スポーツ経験に基づく信頼性と専門性は、一般起業家にはない強力な差別化要素です。実際に、フットサル元日本代表・星翔太氏はIT企業でのインターンから「プレイングワーカー」というワークスタイルを確立し、引退後のキャリア設計のモデルケースとして注目されています。
競技引退後にスポーツビジネスで成功した事例は多く、コーチング・トレーニングジム経営・スポーツメディア・選手マネジメントなど、アスリートの経験が直接価値になる領域は広がり続けています。創業手帳のアスリートセカンドキャリア解説でも、現役中からビジネス経験を積んだアスリートの方が引退後のキャリア選択肢が広がるとされています。
副業を「学びの場」として活用する
収入目的だけでなく、副業を通じてビジネスの基礎を学ぶ視点も重要です。マーケティング・営業・財務・チームビルディングなど、競技活動では得られにくいスキルを副業で実践的に習得することが、長期的なキャリア資産になります。アスリートのセカンドキャリア設計の記事もあわせて参考にしてください。
- 失敗を許容する姿勢:副業での失敗コストは起業より小さい。現役中に試行錯誤を重ねる
- 人脈の構築:副業を通じた異業種との繋がりがセカンドキャリアの可能性を広げる
- 自己分析の機会:競技以外の場での強み・弱みを客観的に把握できる
まとめ
アスリートの副業・複業は、単なる収入補填ではなく、競技生活全体を豊かにする戦略的な取り組みです。本記事の要点をまとめます。
- デュアルキャリアの考え方を持つ:スポーツ庁も推進する「競技と仕事の両立」を現役中から実践することが、引退後のキャリア形成を大きく左右します
- 競技スタイルに合った副業を選ぶ:パーソナルトレーナー・SNS発信・Web制作・動画編集など、時間・場所の自由度が高い副業が競技との両立に向いています
- 所属先との契約確認を最初に行う:副業を始める前に選手契約・スポンサー契約の副業禁止条項・競合禁止条項を必ず確認してください
- スモールスタートで競技優先を守る:週5〜10時間からスタートし、試合前は副業稼働を制限するなど「競技ファースト」の原則を徹底する
- 副業収入の税務処理を正しく行う:年間20万円超の副業所得は確定申告が義務。国税庁の情報をもとに青色申告の活用も検討を